∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

江戸伝統工芸**銀工芸**

【銀のスプーン】


 貴族と市民という階級意識が根付いている英国には「銀のスプーンをくわえて生まれてきた子供」という持って生まれたクラスを表現する言葉がある。その言葉が貴族という階級のないアメリカに渡り、子供が誕生した時にはお祝いに小さな銀のスプーンを贈るという習慣が残った。
 この習慣、結婚式にブルー・ガーターを花嫁に贈ることと合わせ、日本でも定着してきた習慣といってもいいだろう。


【東京銀器・東京彫金】


 日本の銀製品の歴史は室町時代に始まると言われている。各地で銀山が発見され、銀が基準通貨になっていくことで、銀の貴金属としての地位が頂点まで高まっていったことで工芸品の製作も盛んになっていった。
 銀工芸も、ほかの多くの伝統工芸と同様、もともとは京都を中心として発達した。江戸時代になり、スッキリとした武家好みの意匠が求められるようになって江戸の銀製品は独自の発展を遂げることになる。
 ちなみに、彫金の世界では格式を重んじる公家文化を背景に持つ京都の作風を「家彫」、自由を謳歌していた町民文化を背景にした江戸の作風を「町彫」という。ほぼすべての伝統工芸の世界に存在している「家」と「町」の関係を明確に示しているのは、この彫金の世界だけである。
 貴金属工芸をその技術を元にして大きく分けると、金属を叩いて形作る鍛金(たんきん)、金属に彫りを入れたり、着色を施す彫金(ちょうきん)、そして、熔けた金属を鋳型に注ぎ入れ冷やし固める鋳金(いきん)の3種類になると言われている。
 その中で、東京の下町を中心に発展したのは鍛金と彫金である。
 大袈裟に言えば、鍛金は金槌一本で花器や食器などを作り出す技術。繊細な手ワザで作り出されるその作品には気品と自由な発想が備わっている。
 また、彫金は飾り物から装飾品まであらゆるものに挑戦している。江戸期から続く帯留や根付や煙管、金やプラチナで作られることが多くなったブローチ、ペンダントヘッドなどの宝飾品などが主流だが、記念品として使われる飾り物としても秀逸な作品が作られている。
 

金属工芸のお国柄】


 英国ではカトラリー、イタリアではイエローゴールドの宝飾品、ロシアではホワイトゴールドやプラチナを使った宝飾品と言ったように各国で得意とする貴金属工芸が成長した。
 江戸・東京では花や動物に見たてた作品が多く作られてきたが、その意匠の根底には自由闊達な江戸好みの「粋さ」や「洒落っ気を追求する気概」が備わっている。
 正直なところ、残念ながら、江戸好みの粋さを理解する人も少なくなってしまい、一部の趣味人以外は伝統的な金属工芸に触れる機会も少なくなってしまったが、そのワザは現代的な宝飾品に生かされている。しかし、この表現の変化こそが、未来へ続く伝統工芸の継承といえるかもしれない。


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