∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

一年前の今日

【2011年2月5日0時30分】


 「パリーン」。「ガシャーン」。「ウオー、キャー」。「パシッ、ピシッ」。
 「こんな時間に何だ。うるさいな」。そろそろブログを書いて風呂に入って寝るとするか、と思っていたところでした。窓の外が異常にうるさい。ふと窓の方を見ると窓が赤く染まっています。
 「エッ、どうなってるの」。急いで窓を開けてみると、お隣のアパート2階の窓から火がごうごうと音を立てながら噴き出しています。その距離、目の前2m。「エエッ、火事だ」。すぐに119番に通報。消防の方いわく「何軒か通報があり、すでに消防車が向かっています。安全な場所に避難してください」とのこと。すぐに雨戸を閉め、財布、預金通帳、パスポート、実印を持って外へ。ご近所の方たちが出火元や我が家も含め隣合った民家を見守っています。僕も同じように見つめていました。火炎で目が痛くなるなか、延焼する覚悟も決めました。
 とにかく大家さんに連絡をと思ったのですが、電話番号が分かるのは不動産屋の社員のケータイだけ。それでもいいかと連絡したものの、驚いているようですが実感はない様子。明日の朝、見に行きますとのことでした。
 ここにいてもしょうがないと思い、ご近所を歩きまわっていると、火元のアパートの前でしゃがみ込んでいる青年を発見し、話しかけたのですが、どうやら中国の方のようで日本語が通じません。その隣で叫び続けていた中国系の女性が背中を痛めているとボディ・ランゲージで伝えてくれたため、ご近所の方とふたりで青年を抱え、火元から離れた場所に運び、消防の方を探し出して救急車の手配を頼みました。
 その後も歩き続けていると、今度は我が家の上階に住む年配の女性が身体を震わせながらしゃがみ込んでいます。声を掛けると「寒いからうちに帰ります」と我を忘れたように叫び始めました。今度は火元から離れたお宅に声を掛け、一時避難をお願いしました。
 とにかく、どこへ行っても大混乱。煙を吸い込んだ人や、子供を抱き抱えながらガタガタと震えている女性も。消防は走り廻り、警察は黄色いテープを張り始め、報道関係者はビデオカメラを抱えて突進してくるし。消防団だって大声で非難を呼び掛けていました。
 もう一度火元を見ると今度はお隣に火が廻ったようでした。窓から火炎が噴き出し始めているところ。消防は我が家の二階を消火拠点に決めたらしく、窓ガラスを割って放水し始めました。そのおかげでしょうか、徐々に火は収まり始めていました。


 不謹慎にも「拠点にしたからには燃えないな」と思った瞬間、眼鏡がないことと靴下を履いていないことに気がつきました。警察に頼んで立ち入り禁止の我が家に入れてもらいそれらを探し出したのですが、その時点でフローリングの床には水が数センチ溜まっています。天井からは水が流れ落ちています。
 電気のブレーカーを落として退避。外へ出て我を忘れている自分に気付いた途端、なぜかおなかがすいてきました。ここにいてもしょうがないと近くのファミレスへ向かったのですが、なんと営業時間外。時計を見ると3時過ぎでした。止むを得ず駅前のマクドナルドへ。今思うと完全に彷徨える人でした。
 少し落ち着いたところでケータイから「現在、隣家が火事。避難しています」というコメントだけの文章をアップ。驚いたことにリンクしているツイッターに見ず知らずの方からお見舞いのツイートをいただきました。不幸中の幸いというかツイッターの威力を実感したというか、読んでいただいた上にお見舞いまで寄せてもらってありがたいというか。複雑な気持ちになったことを覚えています。


 2時間ほど経ってから帰宅しました。消防が鎮火確認中でしたが、家に入ってもいいとのこと。入ってみると家中プールになっています。目に染みる刺激臭が立ち込める中、バケツで水をかいだし、雑巾で拭き、ベッドなど水を吸ってしまったものは壁に立てかけました。ようやく落ち着いた頃には朝日が射してきています。辛うじて水に濡れなかったざぶとん2枚と毛布1枚を台所にセットして服を着たまま仮眠。昼過ぎまで爆睡してしまいました。
 起きたあと、窓を開け放ち、もう一度ぞうきんで水を拭き、そのままの状態で外出。できるだけ乾かそうという魂胆です。
 結局、こんな状態を5日間続け、ようやく落ち着きました。火災保険用の罹災証明も貰い、大家さんとも何度も話をし、捨てるものは捨て、買うべきものは買い。やっと日常を取り戻しました。


 あの大騒ぎからちょうど一年。燃えたお宅の建て替えも終わったし、我が家も何事もなかったかのようです。しかし、僕の心の中には、あの火炎のこと、叫びながら逃げる人々、我を忘れた自分など火事や災害に対しての潜在的な恐怖心と警戒心が植え付けられました。
 二度と経験したくない事実。あれからは消防車が走るところを見るたびに、あの時のことを思い出してしまいます。二度と経験したくないと。


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