∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

理想と現実のはざまで

認知症高齢者自立度4】


 先日、名古屋地裁でひとつの判決が出ました。
 「認知症の男性高齢者がJRの電車と接触し死亡。家族の安全対策が不充分だったとして、その妻と長男にJR東海に720万円を支払うこと」。判決を要約するとこのようになるでしょう。


 僕はこの判決を見て「法律を厳密に解釈するということは、なんと惨いことか。何らかの救済策はなかったのか。これでは原告にも被告にも後味の悪いものになるのでは」と感じてしまいました。
 電車を止められたのだから原告のJR東海が損害賠償を請求するのは当然のことです。というより、状況を斟酌して損害賠償を請求しないほうが問題でしょう。
 しかし、介護ヘルパーを依頼すべきだった、あるいは介護ヘルパーを依頼すべきだったとする裁判所の解釈は状況や症状の理解が浅いと感じています。
 認知症高齢者自立度4といえば24時間介護が必要になるレベルですが、その介護ヘルパー自体を拒否する可能性もあるはずです。
 また、徘徊予防策を取るべきだったといっても、予防策をかいくぐって徘徊してしまうという厄介な症状も見られるのが認知症です。
 ケア・マネジャーの方からそれなりに適切なプランが提案されていたことを前提にすると、介護保険でカバーされる全額を使い、85歳の妻が寝る間も惜しんで介護すれば今回のような事故も起こらなかったのかもしれません。しかし、介護する家族には息つく暇も余裕もなくなるはずです。
 つまり、いろいろな可能性を試してみたものの今回のケースのような在宅の老老介護以外選択支がなかったことが考えられるわけです。


 介護してきた家族にとっては認知症と闘ってきた結果がご本人の事故死と損害賠償の支払いというのではあまりにも残酷です。
 もしこんな時に活用できる介護保険制度の優遇措置的な側面があれば、今回のような残酷な現実を突きつけられることもないはずです。
 介護保険制度自体のスケールダウンが取りざたされている今、介護する側に立った法の法制化もハードルが高くなっているのも理解しています。
 しかし、成長途上の制度だけに大きく空いた法の網の目を潰していくためにも、厳密に検証された特殊な例に限っては特例措置が受けられるという発想と法制化が必要ではないでしょうか。


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