∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

永らくお世話になりましたが閉店します

【あの店もこの店も】

 神保町の「天丼いもや」と「とんかついもや」。秋葉原の「かんだ食堂」。ノレンを潜るシチュエーションは違っても、数十年に渡って僕の胃袋を満たしてくれた食堂がこの3月、揃って姿を消すことになりました。

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 ──店の外で順番を待ち、入ってからも順番を待つ。席が空いたら連れと席が離れることになっても文句を言わずに案内に従って座り、静かにかつそそくさと食べて終わればすぐに退席する。メニューは天丼のみ。いつ行っても混んでいるので必ず揚げたてが出てくる。濃い目のタレとツヤツヤのご飯が特徴で、なぜか海苔の天ぷらが付く──。
 もう35年以上前になりますが、務めていた出版社の先輩が教えてくれた「天丼いもや」は安くて旨く、調理には絶対に手を抜かず、客には丁寧。こんな姿勢が満ちている店でした。

 ──「とんかつですか」。掃除が行き届いた引き戸を開けると「いらっしゃいませ」や「並んでお待ち下さい」という言葉よりも先に注文を聞いてくる店──。
 これが「とんかついもや」流の客あしらいでした。揚げるのに時間が掛かるとんかつを最速で提供するにはこのスタイルが良かったのでしょう。ロースカツとヒレカツしかないから出来たと言ってもいいでしょう。この店も「天丼いもや」と同様に店員の仕事ぶりは文句なし。そんな姿勢が客にも伝わるのか、店全体に整然とした秩序のような空気感がありました。

 ──何もかもが大盛りで、安さと味の濃さは敵うものなし。メニューが壁にぶら下がった典型的な定食屋スタイルだが掃除は行き届いている──。
 秋葉原に青果市場があった頃に開店した「かんだ食堂」はこんな店でした。15年ほど前、秋葉原のパーツ屋を定点観測していた僕は出来るだけ腹を減らして行ったのを記憶しています。ちなみに当時ご飯を大盛りで頼まなかったのはこの店だけでした。ここ以外では昼ごはんとして食べようとも思わないハムエッグ定食やウインナ定食をガツガツ食べていると「アキバで食らっている」と思えたものでした。

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 どの店も「とことん安くて、そこそこ旨くて、調理にも客にも丁寧」というポリシーがシッカリと根付いた店でした。そんな姿勢を理解して従うのが心地よく感じていたのだと思います。
 その場しのぎの教育で適当に食べ物を提供している多くの店とは一線を画して「プロが作り、接客する店」だった三軒が揃って閉店するなんて、この3月は「厄月」だったのかと気落ちしています。 数十年続けて来た店を閉める店側も不本意でしょうが、同時に、そんな店を愛していた客にも大切なものを失ったという喪失感に包まれています。

 またひとつ昭和が消えていきました。もうこんな店は出てこないかもしれないという寂しさはどうやって埋めればいいのでしょう。……ありがとう。ごちそうさまでした。

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