【信条が変わってしまいそうな気配】
「30歳になったらジーンズとスニーカーは止めよう」。
大学を卒業して出版社で働き始めた僕は、自由だけどセンスには異常にこだわる社風の会社にほぼ毎日ジーンズとスニーカーで出社していました。
学生時代からアルバイトをしていた会社だったため、いわゆる「サラリーマンスーツ」で出社しようものなら、部署全員から「ここをどこだと思っている。帰って着替えてこい」と指摘されるのが当然という気風を熟知していたので、何の違和感もなく通っていました。
高校生だった時から数えると15年間はジーンズにスニーカーで闊歩していたのですが、29歳の半ばを過ぎた頃、突然ジーンズもスニーカーも止めようと決心してしまったんです。
もっとも、ジーンズがチノーズ、スニーカーがレースアップのモカシンに変わっただけ。ほとんどの人が抱いていたはずの「変な若者」と印象はそのままでした。
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一旦、こうと決めるとその習慣を自分からは変えない性格の僕のこと、その出版社を退職するまでジーンズとは絶縁、スニーカーに至っては未だに履いていないのですが……。
そんな僕の信条にちょっとした変化が起こりそうなんです。
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スニーカー史のなかで欠かすことのできない秀逸な存在なのに、残念なことに姿を消してしまったブランドが復刻されたというのを風のうわさに聞きつけ探してみると、ありました。
『BALL BAND』
今ではデッドストックもほとんどなく、アメリカの田舎町で地道に営業しているユーズドクロージングストアはもとより、サンデーマーケットに遺品整理のために出品されたものの中からも見つけるのは困難なはずの貴重品なのにという驚きが僕の心に火を点けたようです。
こんな凄いヤツを見つけ出し、製法を探り、当時の匂いを残したまま復刻させるには並々ならぬ苦労や努力があったはずです。
エポックメイキング的なモノも素晴らしいけれど、この手の復刻モノには違った形の「アツさ」が備わっているものです。いけない性格だと判ってはいますが、そんなヤツを見てしまうと、僕はどうしても気になって手にしたくなってしまうんです。
自分の信条を曲げてでも履いてみたいとか着てみたいと思わせるようなヤツなんてめったにありません。でも、コイツは気になります。信条を変えようと決心するまで時間は掛かるかもしれませんが、一度決めたらのめり込んでしまいそうです。
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