∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

シアーズ・ローバックとホール・アース・カタログ

【時代を作り、時代とともに変化する】

 先週だったでしょうか、アメリカでカタログによる通信販売の先鞭をつけたシアーズ・ローバックがKmartが合併して誕生したシアーズ・ホールディングスが破産申請をしたというニュースを目にしました。

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 学生時代にシアーズ・ローバックの1896年版カタログを復刻した本を手に入れた時、僕は当時のアメリカが持っていた活力や商品力や購買力、そして、言葉に出来ない不思議な魅力に圧倒されながら見続けました。
 あれもこれも思い出せばキリがありませんが、20世紀初頭のアメリカには昔の電話帳のように分厚いカタログを使いながら、全米を商圏にした販売網があったことと、質素倹約を美徳としていた当時のアメリカ人、つまりヨーロッパからの移民やその子孫たちが好んだものがいかにアメリカン・スタンダードとして残り、今に伝わっているかというふたつの要素は今も頭の引き出しに大切にしまい込まれています。
 同時に、エドワード・ホッパーの絵画やマーク・トウェインオー・ヘンリーの小説、あるいは禁酒法などにも思いを馳せていたように記憶しています。
 また、アメリカの郵便や運輸事業を担うことからスタートして、東海岸と開拓地との間で頻繁に取り扱われるようになった為替取引を成功させ、今では誰もが知っているクレジットカード会社になったアメリカン・エキスプレスがシアーズ・ローバックの商品を運んでいたのではというような想像もしていました。

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 一方で、公民権運動、ベトナム反戦などアメリカが大きく変わった頃に誕生した『ホール・アース・カタログ』が今年で50週年を迎えたというニュースにも接しました。
 創刊後何年か経った頃、黒地に地球の写真がレイアウトされたこの雑誌を見た時も衝撃を受けたことを覚えています。
 産業優先で、進歩することと巨大化することだけを考えていたアメリカが地球環境のことを真剣に見つめ、ひいては平和とは何かを模索するきっかけを作り出した雑誌ですが、今ではスペクテイターと誌名を変えて創刊時同様の姿勢を貫きながら地球環境について強烈なメッセージを発しています。
 ちなみに、亡くなったアップル社の創業者スティーブ・ジョブスが最後に語った言葉『Stay hungry. Stay foolish.』はホール・アース・カタログの最終号の裏表紙に書かれていた言葉。彼も読者の一人だったのでしょう。
 この雑誌をパラパラと捲りながら、ホーボーを題材にしたジャック・ケルアックの『路上』からリチャード・ブローティガンの作品群まで、ウッディ・ガスリーが歌いはじめピート・シーガーボブ・ディランとつながっていくメッセージソングの数々、そして重要な舞台だったカリフォルニアのレッドウッド・フォレストのことまで次々と思い浮かべたのを覚えています。

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 一方は会社倒産、一方は50周年を迎えた二冊の雑誌。用途も指向も違うとはいえ、どちらも強いリーダーシップを発揮しながら時代を変化させ、思想、文化、習慣すべてに影響を与えてきた雑誌であることに間違いはありません。僕もいろいろな意味で影響を受けてきたと思います。

 時代は移り変わっていくもの。しかし記憶の中に刻み込まれた思想や意識はいつまでも心の中で生き続けていく。

 こんな言葉を思い浮かべながら、二冊の雑誌を通して時の流れを感じさせてもらいました。僕はこの二冊の雑誌に出会えたことを今も幸せに感じています。

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