∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

≡≡ 建築物と美術 ≡≡

建物そのものが主張する美の集積地

 品川駅高輪口から徒歩10数分。箱根駅伝のルートとしても知られている新八ツ山橋の信号を渡って御殿山の住宅街へ入っていくと歴史的にも価値の高いモダニズム建築が見えてきます。
 周囲のお屋敷に同化して溶け込んでいるその邸宅が美術館だということは入り口に掛けられた小さな看板だけ。なにげなく通り過ぎてもおかしくない邸宅です。

 この邸宅こそ、日本ではほとんど例のない現代美術を専門に発表し続けてきた『原美術館』なのです。もともと1938年に当時流行モダニズム建築として建てられたものを1979年に再生してオープンしたこの美術館では以来数多くの現代美術作品が展示されたり、パフォーマンスが発表されてきました。

 数カ月前、この美術館が2020年12月には閉館して、伊香保温泉にある『ハラミュージアムアーク』にすべてが集約されるという話を聞き込み、早いうちに行かなければと思っていました。
 僕には敷居の高いコンセプショナル・アートの美術館なので10年以上行っていませんでしたが、移転するとなると話は別です。
 原始的かつ神秘的な力を秘めた現代美術家加藤泉氏の半世紀近くに及ぶ作品が一堂に会した『加藤泉-LIKE A ROLLING SNOWBALL』展を観ることと、建築物としての美の両方を楽しませてもらおうとして出掛けました。

 ところで、ところで、です。

 2020年夏には近衛師団司令部だった国立近代美術館工芸館が金沢に移転し、同年12月にはこの原美術館伊香保温泉に移転します。新たな美の拠点を作って作品の保存や拡充を行うのは、判ってはいても、気楽に訪れることの出来ない存在になりそうで一抹の寂しさを感じてしまいます。しかも工芸館に関しては建物も移転するとか。こうなるとそのための旅行計画を練らないといけないようです。

 旧朝香宮邸をリノベーションした都立庭園美術館、細川家の美術品収蔵庫だった永青文庫民芸運動の提唱者、柳宗悦が創設した日本民藝館、彫刻家朝倉文夫の作品を自宅だった建物に集めた区立朝倉彫塑館。そして原美術館と近代美術館工芸館。
 東京には歴史的に価値のある建造物が美術館になっている例がいくつかあります。それぞれが比類なき作品を所蔵したり展示したりする貴重な空間です。僕はそんな空間が大好きです。ひょっとすると展示作品以上に建造物そのものに惹かれて訪れているといっても過言ではないくらい。
 それなのに、来年になると、そのうちの2つも閉館してしまうなんて。こんな時が来るなんて思ってもみませんでした。これからは気楽にフラフラと訪れないほうがいいのかもしれません。

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