∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

≡≡ 大雨になりそうな午後 ≡≡

突然思い出した植草甚一

 『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』。
 1972年に晶文社から出版され、その後筑摩書房から再出版された単行本のタイトルです。著者は植草甚一。散歩と、雑学と、ミステリーと、ジャズと、映画と、アメリカ文化が好き。写真だけを見ると相当な変人のように見えます。

 僕が氏を確実に意識し始めたのは、縦40センチ程度、横30センチ程度というバカでかい判型の雑誌『ワンダーランド』(JICC出版のちに『宝島』と改題し宝島社)から発行の責任編集者として表紙に書かれたときでした。
 その雑誌を知る前に『話の特集』という雑誌に寄稿された一文が最初の出会いだと思いますが、正直なところ、今から50年近く前のこと、正確には覚えていません。

 『ボーイズライフ』『ドレッセージ』『話の特集』『美術手帖』『ジャズ』『スイングジャーナル』『アンアン』『流行通信』などなど、中学生からの数年間を掛けて僕を“雑誌好き”に育ててくれたものは数々ありますが、なかでも『ワンダーランド』は「雑誌ってこんなことも出来るんだ」「こんなおもしろい世界があるんだ」と興味津々、ワクワクドキドキしながら読んでいたものでした。

 植草甚一氏の文体は、ミステリーの研究と言うか、とてつもない量の本を読破してきた人間が気持ちの趣くままに書き綴ったものといってもいいものでした。その氏が“ブッちぎった”のが『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』だったんです。氏が気に入ったミステリーを、あくまで細かく、悪く言えばくどくどと周辺知識を振りまきながら仕立てた一冊です。
 記憶も薄らいでしまった今では、タイトルの『雨降りだから……』しか正確に覚えていませんが、気持ちや生き方については僕の深層心理に深く刻み込まれているような気がしています。

 自粛が続き、読書と昼寝を続ける日々が続いています。今日も辛抱の時間を過ごしていましたが、午後半ばになると窓の外に雲行きの怪しさを感じるようになり、アレレと思っていたところ、夕方になると雷が鳴り、雨が地面を叩く音が響くようになり……。

 そんな夕方、突然『雨降りだから……』のフレーズが浮かんできたんです。日々の生活にアクセクして、気持ちの余裕がなくなった僕に「ちょっと生き方を見直したら?」と言われているかのようでした。
 世知辛い生き方とは無縁の“のほほん”とした生き方も少しは取り入れてみるといいのかもしれません。特に今のようなキリキリピリピリしたご時世には。

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