秋葉原のお好み焼店にて
私は「あなたにとってのソールフードは何でしょうと聞かれたら『お好み焼』と答えることにしている。東京で生活しはじめて数十年経ったといっても、子供のときに覚えた旨さは忘れられないからだと思っている。
そんな私が時々顔を出す大阪生まれの店が秋葉原にある。大阪生まれというといまや、オーバーデコレーションが当たり前になってしまったが、この店は古典的なスタイル、つまり、見た目はシンプルだが、キャベツの切り方と生地の旨さ、ソースの奥深さが相まったもの。神戸流に近いと言えば近いので気に入っているのかもしれない。
そんな店に数カ月ぶりに行ってみた。東京人が右へ倣え式に皮肉る、お好み焼+白ゴハン+味噌汁が組み合わさった昼メニューの「お好み定食」が食べたくなったからである。もちろん、相変わらず美味だった。
その店から帰ろうとした時、店長から「今日から再開店なんです。コロナのお陰で、ずっと休んでいました」と言われた。この店も自粛していたのだ。
昼夜とも回転率の高い高層ビルのレストラン街の店子で、ほかの店は営業しているにも関わらず1月からずっと休業していたらしい。従業員も以前通りだったので、どう計算しても、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金だけでは足りなかったはず。本店からの支援もあったかもしれないが、よく耐えたものである。
苦渋の時を越え、溢れんばかりの笑顔で再開を伝えてくれた顔見知りの店長の心情を考えると、呑気に「お好み定食」を食べていた自分が恥ずかしくなってしまった。
国の方針に従い、じっと堪えて再開する日を待っていた店に幸いあれ。以前の賑わいが戻ってくることを心から願うばかりである。
[0322 - 3728]