∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

≡≡ 被害想定見直し ≡≡

どこかしら違和感が残る

 東京都が首都直下型地震による被害想定を10年ぶりに見直したが、私は今回の発表を聞いて違和感を感じている。

 前回は「M7.3の首都直下型地震」「M8.2の海溝型地震」「M7.4の立川活断層地震」という3つの想定でシミュレーションされていたが、今回は「M7.3の都心南部」だけに変更された。なぜだろう? これでは学術的な意味での比較は不可能ではないか。
 それとも、もっとも被害が大きくなると予想されるケースに絞ったほうが都民に理解されやすいということだろうか。

 たった11年前に東日本沿岸全域が-強弱はあるものの-未曾有の津波に襲われたというのに、津波に襲われることが確実な海溝型地震についてシミュレーションしないのはなぜだろう。もし海溝型地震によって津波が発生したら確実に遡上が予想される多摩川隅田川、荒川という1級河川とその支流をリスクの対象外にしていいのだろうか。

 立川活断層の存在が確認されている立川の昭和記念公園近くには内閣府災害対策本部予備施設が設けられている。この施設には全長1000メートルクラスの滑走路を備えた陸上自衛隊立川駐屯地や、多摩地域では最大級の災害救急センターが隣接している。こんな多摩地区最大の災害対策拠点で地震が起こることは想定しなくてもいいのだろうか。余談だが、車で30分も走れば米軍の横田ベースに到着する。

 今回の見直しでは、時系列で被害を予想する「災害シナリオ」が採用されている。だが、阪神淡路大震災東日本大震災、あるいは熊本地震などで経験してきた大規模災害の現実をコンパクトにまとめただけとしか思えないのはどうしてだろう。それなのに、救急医療に関しては検証結果をもとにしたシミュレーションがないのはなぜなんだろうか。

 今回の発表に関して小池都知事は、記者会見の前段で「この10年間、都は防災対策に注力してきた。その結果、耐震化が進み、全壊家屋、火災による被害などすべてが大幅に減少した」と都が取り組んできたことの成果を強調し、そのあとで「被害想定の結果を踏まえ、都の総力を挙げて防災に取り組む」と表明した。
 今回のような想定集が出された場合に後段にあるような決意表明が出されるのは“行政の常”である。いわば型通りの発表である。
 それに対して、前段の成果発表には行政の取り組みだけが取り上げられ、都民それぞれの努力や危機感は反映されていない。都民は“言われるがまま”で過ごしてきたとでもいうのだろうか。

 地震に対する危機感で自宅を建て替え、火災の延焼予防や緊急車両が通過できるように道路の拡幅(所有敷地の後退)に応じてきたのは都民である。都の助成金政策に応えようとしてきたわけではない。
 また、電気やガスの設備を交換しているのはそれぞれの企業である。高速道路や鉄道の耐震化も企業努力の賜物である。都が全額負担してきたのは上下水道だけのように思われるが、そうではないのだろうか。

 この10年、いや、27年間“地震に強くなる”努力を続けてきたのは都だけではない。民間の努力や決断がなければ達成できなかったはずだ。

 都民としては、今日の記者会見を「研究発表は分かった。あとはこれまで以上の地震対策をしていきましょう」と受け取ればいいのだろうか。そして、成果発表的なコメントの部分は「それはよかった」とだけ捉えておけばいいのだろうか。
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[season12/0526/25:30]
小満』‥草木が伸びはじめる頃。夏めいていく中に梅雨の予感。
photograph:souji-ji, tsurumi,city of yokohama
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