記憶の引き出しの中で
美化された味
新宿駅西口。数十年前、まだ多店舗展開していなかった『ヨドバシカメラ』でよく買い物をしていた私にとってこのエリアは、学生時代の良き思い出が詰まっている場所です。
当たり前のことですが、街が一変していることは一目瞭然。覚えていたのは道路のレイアウトだけで、見知った店は数えるほど。相変わらず人いきれでムンムンしている独特の雰囲気を感じながらウロウロキョロキョロしてしまいました。
昔行ったことのある飲食店を見つけたので、ちょっと早めの昼食を摂ろうと入りました。実はこの店、数十年前に初めて入った時「東京にはこんな美味しいものがあるのか」と感激した店だったので、あの感激を再びと思いながら入ったんです。
注文したものを食べ始めて感じたのは「アレッ、美味しいことは美味しいけれど、このレベルならほかで食べたことがあるぞ」でした。
よく出没するエリアなら、メニューリストの上位に入るのは確実なのに、味覚が学生時代に逆戻りしていた私には、あの時の衝撃が感じられないというだけで“普通に美味しい”としか感じられなかったんです。
味覚の不思議ってこういう形でも出てくるんですね。何かの本で「記憶や環境、立場、年齢なども味覚に影響を与える」と書かれていたことを思い出してしまいました。
どうも私は「記憶の引き出しの中で美化された味」を期待していたようです。
もちろん、齢を重ねて味覚中枢が減衰しているということも考えられます。冷静に年齢のことを考えれば当然ですからね。
記憶の呪縛から抜け出せば実際の旨さが分かるはず。近いうちにもう一度訪れて味わってみよう。今、私はそう感じています。
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[season12/0827/25:20]
『処暑』‥酷暑が峠を越す頃。二百十日。台風シーズン到来。
photograph:matsuchiyama-shoden, taito city
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