∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

≡≡ 映画を観たあとの憑依現象 ≡≡

ゴダールの死で思い出したことが
タバコだったなんて……

 ヌーヴェルバーグという映画史に残る新潮流を創り出したジャン=リュック・ゴダールが9月13日に療養中のスイスの施設で亡くなった。91歳。自殺幇助による自死だったという。
 監督としての力が語り尽くされているのはご承知のとおりだが、私は氏とスウエーデン生まれの映画監督イングマール・ベルイマンのふたりから「色という重大な表現要素と決別することで、いっそう奥深い心象風景を描き出せる」ことを学んだように感じている。

 芸術論はともかくとして。

 よく「映画を観終わった直後の観客には主人公の生き方が憑依することがありがちだ」という言葉を聞く。
 私の場合、自分の立ち居振る舞いに憑依を感じたことはないが、ことタバコに関してだけは影響を受けていたように思っている。
 観終わった時の印象だけで「このタバコに違いない」と思い込んだものもあったはずだが、これも一種の憑依現象と言えなくもないだろう。

カサブランカ』のハンフリー・ボガートにしびれて探し回ってやっと手に入れた「ジタン」。
勝手にしやがれ」のジャン=ポール・ベルモンドと出会って吸い始めた「ゴロワース」。
『理由なき反抗』のジェームス・ディーンがヘインズのTシャツの袖に挟み込んでいた「ラッキーストライク」を見て買いに走った「ラッキーストライク」。
アパートの鍵貸します』のジャック・レモンが大雨の中で相手役のシャーリー・マクレーンの「タバコ持ってない?」というセリフに応えて「メンソールしかないけれどいいか?」の言葉とともに差し出した「クール」。
 そして、小津安二郎の代表作『東京物語』の中で笠智衆が“飲んでいた”「ショートピース」。

 どのタバコも映画を観た後しばらくお世話になった記憶がある。手を出さなかったのは『ゴッドファーザー』でマーロン・ブランドが吸っていたシガーと『イージー☆ライダー』でピーター・フォンダが吸っていたマリファナくらいである。

 なかでも「ゴロワース」には数年間お世話になった。浅いブルーの中央にガリアの戦士が使った兜が描かれたパッケージに入った太巻の両切。ぎっしりと詰まった黒いタバコ葉から醸し出される強烈な香り。めまいがしそうになるほど強いニコチンとタール。どれもこれもが“オンリーワン”。とにかく強烈な印象をもつタバコだった
 あの、ムッシュかまやつが、ジャン・ギャバンが吸うゴロワースをヒューチャーして『ゴロワーズを吸ったことがあるかい』を創ったこともうなずける。

 ゴダールの死が、タバコの思い出に結びついてしまうとは……。マッ、映画の見方は人それぞれということにしておこう。
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[season12/0917/25:30]
『白露』‥朝夕の涼しさ。重陽節句。菊。台風。夕焼け。
photograph:OLD TREE/souji-ji, turumi, city of yokohama
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