∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

≡≡ ハッカとチョコは宝物 ≡≡

サクマ式ドロップス
平和のありがたさが詰まった宝物が
消えていく

 驚きのニュースが飛び込んできた。

 あの『サクマ式ドロップス』を製造している佐久間製菓が来年1月20日に廃業するというのだ。しかもこれからは追加生産しないという注釈付きである。

 子供の頃の私にとってサクマ式ドロップスは一粒ずつ大事に味わう“上等なアメちゃん”だった。一粒ずつ出てくる小さな口が開いた缶を“おみくじ”のように思い込んでいた時期もあった。大好きだったハッカ味とチョコ味が出てきた時は「やった!」と喜んだのを覚えている。

 大人になってからは買うこともなくなったが、それでも見かけるだけで子供の頃を思い出し、なぜかホッとするような安心感に満たされていた。
 しかし、一端のオヤジになってから観た野坂昭如氏原作・スタジオジブリ制作のアニメ『火垂るの墓』で、神戸大空襲で二人きりになってしまった兄妹のうち妹の節子が、朦朧とした意識の中で、ドロップの代わりにガラス製のおはじきを舐めるシーンを観てからはサクマ式ドロップスへの見方を変えた。きっと戦火に見舞われた子供たちにとってこのドロップは「平和のありがたさを体現した本物の宝物」だったのではと考えるようになっったのだ。

 そんなサクマ式ドロップスがなくなる。原材料の高騰と需要減少による“あきらめ廃業”だという。携わっていた人々が断腸の思いで下したこの決断は「体験したことのない人間には理解できない苦しみから抜け出す唯一の道」だったのだろう。

 昭和レトロがもてはやされる時代になったというのに、私の周囲からは懐かしい味が次々と消えていく。「消えていくからノスタルジーなんだ」という意見もあるが、その時代にも生きていた人間にとっては、複雑な思いしか湧いてこない。

 拝啓 サクマ式ドロップス様。幸せな時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます。

[season13/1109/25:20]
サクマ式ドロップス』‥ハッカとチョコは宝物。火垂るの墓
photograph:SAKUMA-SHIKI DROPS(reproduction:HOTARU no HAKA)
                   [2022/1109]