【そうだったのか…】
秋が深まっていくにつれ『天高く馬肥ゆる秋』という言葉をそこかしこで見聞きするようになりました。
僕はこの言葉を「澄み渡った空はどこまでも高く、馬は秋の実りをたっぷりと食んで立派に肥え、逞しくなる」というものだと思っていました。早い話が「食欲の秋」。糖質制限中の身としては気をつけねば、なんて思っていたわけです。
ところが、ところが……。真意は違っていたんですね。
博学の師の言によると、もともとこの言葉は中国の成句で「匈奴至秋、馬肥弓勁:匈奴、秋に至れば、馬肥えて、弓強し」というものだとのこと。つまり「漢民族が恐れていた匈奴は秋になって馬が逞しく肥えたのを見計らって攻めて来るので用心を怠らないように」ということです。
どこにも食欲の秋や食べ過ぎに注意なんてお気楽な意味は含まれていません。僕がそう思い込んでいただけのようですが、日本語をイチから学び直そうとしている人間にとっては致命的な記憶違いです。
今年の前半、日本を揺るがすような話題になった問題で毎日聞かされた「忖度」という言葉でさえ、「斟酌」と「おもんばかる」の違いがはっきりとしないので確認し直したという前歴がある身としてこの「天高く…」問題も「さもありなん」出来事でした。
「忖度:相手が何を言いたいのかを考えたうえで、自身の判断で事を進める」。「斟酌:相手と話をしてその事情を汲み取ったうえで事を進める」。「おもんぱかる:慮る。おもんばかるとも。周囲の状況を見極めて熟慮した上で考慮する」。
正直なところ、僕は忖度と斟酌を混同して使っていました。ちなみに「おもんぱかる」は、ずっと「おもんばかる」だと思っていました。
長年の慣れだけで何気なく使ってきた日本語ですが、この歳になっても、語彙の少なさを埋めていく作業以外に混同や致命的な記憶違いも正していく必要があるようです。フー、大変だ。
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