∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

誕生100周年

岩波書店


 『真理は万人によって求められることを自ら欲し、芸術は万人によって愛されることを自ら望む。…中略…吾人は範をかのレクラム文庫にとり、古今東西にわたって文芸・哲学・社会科学・自然科学等種類のいかんを問わず…中略…簡易なる形式において逐次刊行し…中略…その性質上経済的には最も困難多きこの事業にあえて当たらんとする吾人の志を諒として、その達成のため世の読書子とのうるわしき共同を期待する。
──岩波文庫巻末・読書子に寄す──岩波文庫発行に際して
 引用が長すぎて恐縮していますが、これでも省略しすぎかなと思うくらいの名文です。


 今から数時間前、つまり8月6日3時。NHK・FMを聞いていたら『昨日(8月5日)岩波書店が100周年を迎えました……』というニュースが流れてきました。
 一瞬「エッ、NHKが民間企業の周年記念を報道するの」と感じたのですが、次の瞬間「確かに岩波は知識の集合体。この出版社がなければ日本の知的出版物は体系化されることなく散漫で、利に走ったものばかりになっていたかも。文庫も新書も、もちろん広辞苑も、どれだけお世話になってきたことか」と思うようになりました。そして僕のこんな気持ちは多くの人たちが抱いている気持ちと同様のはず。公共放送がニュースにするのももっともだと直感的に思うようになりました。


 確か岩波書店の出版物で一番最初に読んだのは『岩波少年文庫』だったはずだけど、一体、何冊読んだんでしょう。どれだけ広辞苑の助けを借りたのでしょう。
 出版社で働くようになって岩波書店の販売条件が「正しいけれど異色」ということを知った時「岩波はそれでいいんだよ」と妙に納得したのも、その出版理念が知らず知らずのうちに自分の中に染み込んでいたからだと確信しています。


 それにしても……。僕が働いていた出版社も約10年ほど前に100周年を迎えたけれど、あの時は業界からのお祝いはあったものの、それ以外は……。出版業という同じ括りとはいえ、どうもその“重み”が違います。


 ともあれ……。岩波書店様。100周年おめでとうございます。これからも知の世界の開拓・開墾・拡大に貢献されますように。一読書子として常に期待しております。


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