∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

江戸伝統工芸**浮世絵(その1)**

【台風接近】


 今日、日本列島は台風の影響で暴風雨が各地を襲っている。進路が変わったようなので微妙になってはきたものの、明日の午後までは東京も要注意。特に豪雨には警戒したほうがよさそうである。
 と言いながら、実は今日、僕は急な土砂降りの中を歩くはめになった。たった7〜8分と安易に考えたのが失敗のだった。気がつくと靴もパンツもぐっしょり。それなのに、それ以降はさほどの雨も降らなかった。残ったのは僕の「あれはなんだったのだ」という感情だけだった。


【広重「大はしあたけの夕立」】


 雨に降られた後、一息ついたところで江戸の浮世絵師、広重の『名所江戸百景』の中の一枚、「大はしあたけの夕立」という浮世絵のことを思い出した。
 浜町から深川方向へ抜ける新大橋を舞台に、江戸の町人が傘をさしたり、蓑をかぶったりしながら夕立の中を走る風景が描かれた作品である。
 この作品、ビンセント・ファン・ゴッホが模写したことでも有名な広重の代表作の一つなのだが、それと同時に、浮世絵版画製作の真骨頂とでも言うべきワザと浮世絵ならではの製作方法が随所に見られる作品でもある。
 たとえば、絵の上部、黒雲で覆われた空は、版木にはない。「あてなしぼかし」という刷師の裁量で作られたものである。そして、全面に降り注ぐ雨は髪の毛より細い線が彫られた2版の版木と濃淡2色の墨で表現されている。左右30センチもないところに、まるで罫書きのように細い100本以上の線が描かれていることになる。
 このふたつのディテールは、おそらく広重は描かなかったと言われている。というのも、この作品集を出版した版元(魚屋栄吉梓)が絵師の広重ではなく、彫師と刷師に指示したものであろうと想像されている。つまり、浮世絵の中でも版画ものは版元のプルデュース力も重要な要素になっているわけだ。
 浮世絵版画は版元、絵師、彫師、刷師。この4者の力量が最大限に発揮された時、初めて至高の作品となると言っても過言ではない。


【多種多様な浮世絵】


 浮世絵というと江戸時代の木版画を思い浮かべる。しかし肉筆で描かれた浮世絵にも重要な作品が残っている。もともと、狩野派を離れた絵師が多かったことからも肉筆浮世絵には、それだけで独自の世界観が備わっているといってもいいだろう。
 多くの方向性を持っている浮世絵だが、どれにしても江戸で誕生し発達した。まさに江戸の町人文化が生んだ世界的美術工芸といっていいだろう。格式を重んじる京文化にはない自由闊達な「生活の中の美術工芸」、それが浮世絵である。
 語りつくせない魅力を持った浮世絵だが、その作品には多くの職人のワザが集積している。
 次回はそんな浮世絵のビジネスとテクニックについて考えてみよう。