∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

東京のセミ

セミが鳴かない夏】


 友人が「今年はセミが鳴かないな」と言っています。確かに。
 例年通りなら「真夏の街の音色」と言えば、通年聞こえてくる車の音やスピーカーから聞こえてくる音声以外に、セミの鳴き声や風鈴の音があるはずなのに、今年の東京では風鈴の音は少し増えたような気もしますが、セミの鳴き声はまだ聞いていません。
 ここ数日のように涼しい日が続くと「セミだって出番待ちでしょう」なんて、お気楽に言っていられるのですが、それ以前の暑かった日も聞かなかったような……。
 こんな時、物事をシリアスに捉える方だったら「自然が破壊されている」とか「放射線の影響だ」とエスカレートしそうですが、飛び抜けた楽天家だったら……、きっと鳴いても「それで?」なんて言ってしまうかも。
 と言いながらも、夏の風物詩が聞こえてこないのはちょっと寂しいものです。早く鳴いてくれればいいのに。


【東京の夏休み】


 もう40年も前のことですが、僕の父は家族を神戸に残して東京に単身赴任していました。いつもは父が神戸に帰ってくるのですが、夏休み期間の母と妹と僕の3人が東京に出向き、社員寮になっていた父のマンションで暮らしていました。とは言っても1〜2年間程度でしたが。
 六本木の交差点から麻布十番の商店街へ坂道を下って行った所、そんな「芸能界エリア」に父の住むマンションはありました。なんと、窓から東京タワーが大きく見える場所です。
 当時の麻布十番はとても静かな住宅街と小じんまりした商店街が隣り合った街でした。今でも覚えているのは『豆源』さんと『十番温泉』と、たい焼きの『浪花屋』さん程度ですが、それでも、なんだか庶民的な街だなあと感じたことを覚えています。
 それともうひとつ。パン屋さんで食パンの1枚売りがあったことを発見した時は驚きでした。食パンは6枚とか8枚(神戸流に言うと3枚切や4枚切)で売っているものと信じていたので、この売り方にはビックリ。ご近所の方いわく「このあたりには、一日だけ東京にいて次の日には地方に出かけるという芸能人が多いから、あんな売り方もあるんですよ」とのこと。それまで、静かな住宅地としか感じていなかった僕にとって、初めて「芸能人」の真実を知った瞬間でした。


【東京の自然】


 初めて夏休みを東京で過ごした時、マンションの敷地に植わっている大きな木々に無数にしがみついているセミを発見して本当に驚きました。それにうるさいくらいに響く鳴き声。ジージー、ミンミン、シャシャシャ。あんなにセミの鳴き声を聞いたのも初めてでした。
 というのも、当時の神戸は六甲山系の山々はあるものの、市街地にはほとんど木がない状態で、市街地で聞こえるセミの鳴き声は一匹が出す音がほとんどだったのです。
 それと比べて「東京の六本木と言う所は、なんと木が多く、なんとセミの鳴き声がうるさい街なのか。神戸より自然いっぱいだ」と思ったことを覚えています。
 初めて東京に来るまでは「東京はコンクリート・ジャングルで殺伐としている」というイメージが強かったのですが、どうしてどうして。神戸より緑は多いし、自然も残っているし。セミの鳴き声のお陰で、完全に印象が変わりました。
 何を隠そう、神戸で生まれ育った僕が初めてセミ取りをしたのは東京です。
 そして、あれから40年。さすがにセミ取りはしませんが、セミの鳴き声は聞きたいものです。いつもなら谷中霊園近辺に行くと聞こえてきたのですが……。
 あと数日で暑さが戻ってくるという天気予報を信じるなら、きっとその頃セミの鳴き声も聞こえてくるのではと期待しています。そうでなくても、秋の気配がチラチラと見え隠れし始めるお盆明けにはシャンシャンというヒグラシの鳴き声が聞こえてくるはず。もう少し待ちましょうか。これもまた、今年の夏の想い出になるでしょう。


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