∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

『主婦の店ダイエー』

【木造二階建てで新規開店】

 もう50年以上前、神戸最大の商店街、三宮センター街から伸びる横道を入った所に『主婦の店ダイエー』という木造二階建てのお店が開店しました。
 僕自身も小学生だったかどうかさえ覚えてない頃の話で、すべてがおぼろげですが……。

 おそらく新規開店したばかりの頃だった思います。僕は母に連れられて、──というか、小さな子供を家に置いていくわけにもいかず、やむなく連れて行ったのでしょう──そのお店に行きました。小学校の教師をしていた母が買い物に出掛けるというのですから日曜日だったはずです。
 フロア別の商品構成など何も覚えていませんが、唯一覚えているのは「階段」です。見たこともないほど多くの人びとが行き来する木造の階段から人の動きに合わせてドンドン、ズシンズシン、ゴトンゴトンと生まれて初めて経験するような大きな音が聞こえてくるのです。
 初詣時期の湊川神社より多いのではと感じてしまうほど多い人の流れと階段が発する音を見聞きして、僕はただただ呆然と立ちすくんでしまった記憶があります。ちなみに、子供の頃の体験をこれほど鮮烈に覚えているなんてこの時だけです。
 母が何を買ったのか何も判りません。判っているのは大きな紙袋を抱えて帰ったことだけです。なにしろスーパーマーケットが存在しなかった時代です。きっと『主婦の店ダイエー』だって、開店した店舗が後に、アメリカと同じように、スーパーマーケットと呼ばれるようになるとは想像もしていなかったはずです。単に食料品や日用雑貨を「安売り」するお店でしかなかったのですから。それでも小規模店舗で買い物をするのと比べると「安い」「一か所ですべてが揃う」「買い物かごを持って行かなくていい」と何もかもが新鮮だったわけです。
 ちなみに母は神戸で一番新しいお店で「メーカー品」を安く買うという「最新の流行」を楽しんでいたのではないかと想像しています。

 マーケティングやビジネスモデルといったカタカナ語で表記されるようになった概念さえあやふやだった時代に『ダイエー』は時代の先端を行くショッピングエリアでした。
 その『ダイエー』がついに終焉を迎えたのこと。『イオン』の連結子会社として踏ん張ってきたものの、やはり時代の趨勢には勝てなかったということでしょうか。
 ビジネスには栄枯盛衰が付きものといいますが、僕にとって今回の出来事は特別。またひとつ子供の頃の風景が消えていくような不思議な感慨に浸ってしまいました。

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