∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

セピア色したモノクロ印画紙

【印画紙】


 高校のクラブ活動で僕はすっかり写真の虜になりました。写真史、思想、写真光学、写真化学などのほか、芸術論や美学にまで興味の範囲を広げ、ついに大学で写真の勉強がしたいと思うまでになりました。
 そんな高校時代、フィルム現像やプリントの方法を覚え、毎日のように部室に設けられた暗室で「遊んで」いました。当時、フィルムは富士フィルム、印画紙は三菱の月光を使っていたと記憶しています。
 正直なところ、当時はそれしか知らなかったのです。
 僕がフィルムや印画紙の種類に気付き、自分の表現にそんな「媒体」を選んで使うことを覚えたのは大学に入ってからです。大学で学び始め、先輩やプロの写真家の作品を見ているうちに〈銀塩〉で表現するならフィルムや印画紙のことを知り、使いこなせるようにならねばと思うようになったのです。
 なかでも印画紙はモノクロなのにメーカーによって色合いが違うため、エッジの立ち方がそれぞれ違うフィルムと同様に注目したものでした。


 三菱の月光はブルー系。富士フィルムはグリーン系。今回経営破綻してしまったコダックはセピア系。オリエンタルとイルフォードは純白+純黒。当時の印画紙は、なぜか紙ケースの色と印画紙の色の傾向が同じでした。
 大学に入ってすぐのころはオリエンタルの純白+純黒がお気に入りでした。そのうち富士の印画紙はどうだろう、イルフォードは? と試しはじめ、結局イルフォードの色とコントラストの付き方が気に入り卒業まで使っていました。しかし、高価な上に、あまりにもプロっぽすぎるコダックは「敷居の高い印画紙」のように感じ、結局一度も使うことなく卒業してしまったのです。
 コダックの印画紙は一目見ただけで分かる色合いをしていました。卒業後、写真家の作品を見る機会が増えるに従ってコダックを使っているというだけで「憧れ」に似た感情を抱いたことを覚えています。


【デジタル画像】


 今や印画紙の色がどうだ、という時代は終わってしまいました。デジタルカメラで撮影し、アドビのフォトショップで整える。必要なら修正もしてしまう。フォトショップ遣いが現代の暗室作業になってからかなりの時間が経ちますが、あの「印画紙の色合い」も表現の手助けに使うという時代も終わってしまったわけです。
 今では印画紙仕様のプリンター用紙が主流になりました。どの用紙も光沢感や再現性は抜群ですが、残念ながら「色合い」はどれも同じ。プリンターのカラーバランスとフォトショップ・データの色がすべてになったわけです。


 なんだか、すっかり時代は変わってしまいました。コダックが経営破綻するのもやむを得ないのかと諦めに似た気持ちがこみ上げてきます。
 でも写真表現の最後は印画紙が受け持ってほしかった。こんな風に思っているのは僕だけでしょうか。


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