【思い込み】
昨日、下町桜クルージングをしている時、谷中霊園の一角で知り合いの植木職人に逢いました。向こうは宴会の最中。一目見てかなり出来あがっているようで、挨拶だけで失礼しようとしたのですが……。捕まりました。
失礼するタイミングを計りながらも桜の話題になったのですが、そこで、とても酒の上の話とは思えない話が出てきました。
「桜の花は桜の一年サイクルの最後に咲くんだよ。最初は花が散った後の青葉なんだよ」。
びっくりしました。僕は昨日までずっと花が咲き、若葉が萌え、青葉が茂り、紅葉落葉し、枝の中で花芽が膨らみ始める、と思っていたのです。
本当は、若葉、青葉、紅葉、落葉、新芽、そして最後に花が咲くの順だったのです。冷静に考えると、確かに植物だから子孫を残すために咲く花が最後になるのは当たり前ですが、桜だけは違うんだと思い込んでいたのです。
こうなると、ちょっと桜の花に対しての考え方も変わります。
これまではパッと花が咲き、そのあとは静かに人を楽しませてくれる木。ビジネスで例えると垂直上昇から安定経営、そして落ち込みからの劇的な新陳代謝だと考えていました。
しかし事実は。初々しい若葉が萌え出て、順調に成長し、一見終焉に見えるような沈静期を経て華々しく花開き、次の世代へと引き継がれるわけです。
特に沈静期に見える時、つまり花芽が形成される時期のことが気になってきました。
広葉樹ならではの冬眠期を過ごした後、誰にも知られず自らの生命力だけで花芽が膨らみ、そのあとを青葉を形成する新芽が続く。目に見えないところでこのサイクルが繰り返され、毎年春には多くの人々に楽しい時を与えてくれるわけです。
自然の摂理とはいえ、思わずこのサイクルを自分に当てはめてしまいました。そんなことを植木職人のオヤジにぼやいていると……。バーン。大きな手で肩を叩かれ「しっかりせい。あんたもこれからじゃないか」とカミナリが落ちて……。
このままだと、すっかり出来あがってるオヤジの話は終わりそうありません。一緒だったご家族から助けの手が入ったのを見逃さず、そそくさと退散し次のクルージング先に向かったのですが、桜花の話といい、カミナリといい、いろいろな意味で印象深い時間を経験した春の午後になりました。
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