∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

雪が招いた意欲減衰

デイケアセンターを拒否する彼の場合】

 今夜は久しぶりに友人夫婦と夕食を共にしました。そう、あの軽度の認知症を患っている彼です。

 出会ってすぐに奥様が何かを言いたくてしようがなさそうな顔つきをしているのに気が付きました。彼がトイレに立った時に聞いてみたところ、どうも彼の調子が悪いらしいのです。
 特に二週続けて大雪が降った後、彼がいうところの散歩(奥様は徘徊に近いとおっしゃっていますが)に行くのもままならなくなった後は、雪が溶けても出掛けなくなってしまったとのこと。つまり家の中でじっと何かに耐えているようなのです。午前中はコンピュータを使って僕のところにメールをしてきたり、ワードで何かをリライトしたりとなんとか何かに取り組む意欲があるようなのに、昼食後は急激に意欲が減衰、ボーっとしている時間が増えるというのです。
 しかも急に怒り出したり、意味もなく家具を動かし始めたりという無意識の行動も出やすくなっているとか。
 ちなみに彼は「お遊戯や童謡」なんてやりたくないという理由でデイケアセンターのお世話にはなっていません。すべての世界が自宅の中にある人間です。そんな彼が自宅での自分を持て余しているわけです。

 彼はまだ若い。数十年前と変わらないメニューで盛りだくさんのケアプランを作成することばかりで若年性認知症に対しての対応が遅れているデイケアセンターに行ってしまうと、当然拒否反応も増えるというもの。自ずと自宅で過ごすことが生活の中心になってしまいます。
 もしこれが、彼の世代でもすんなりと受け入れられるようなケアプランがあれば彼もデイケアセンターで過ごせるようになり、生活意欲も高まるはずなのに。

 日本で介護が本格的に注目されるようになってから20数年。先進的なケアの世界は日に日に進歩しているようですが、多くの場合、旧態依然のメニューがそのまま取り入れられている現実にもどかしさを感じながら、心なしか「意欲の閉ざし方」が進んでしまったような彼と食事を続けました。
 奥様には「彼が尊敬しているお医者さんと二人だけで話し合ったらどうだろう、きっとどこかのデイケアセンターで彼が納得できるメニューが見つかるはずだ。そしてそんなメニューを先生から薦めてもらえば彼も納得して参加するようになるかも」とお話ししたところ、彼女は口を真一文字に閉じて首を縦に。

 きっと彼にも春がやって来るはず。本当の春がやって来ることと同様に、彼の意識にも春が戻ってくる日を待つことにしました。

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