【「いつもどおり過ごす」強さ】
今から30年近く前、仕事で初めてロンドンに行った時のことです。
2週間の予定でひとりで出掛けていた僕は、現地の皆さんに協力してもらいながらスケジュールをこなしました。
そんな最終日の午後、僕は買いすぎた資料を入れるためのバッグを買いにピカデリーサービスまで出掛け、安くて巨大なダッフルバッグを見つけたあと、地下鉄の駅に向かったのです。
そこで事件は起こりました。
地下券売機にコインを入れようとした時でした。急に券売機ブースのシャッターがかなりのスピードでガラガラと降り始めたのです。同時に地下からセキュリティが何かを大声で叫びながら登ってきました。
どうしてシャッターが閉まったのかも判らずウロウロしていた僕には彼が叫んでいる言葉が判りません。でも地上に上がってきた彼の言葉を落ち着いて聞いてみると、どうもIRAのテロ計画があり、この駅が爆破されそうなので駅は閉鎖すると言っているようだったのです。
爆破だとか、IRAだとか、テロだとかとは無縁で過ごしていた僕にとっては、まさに初体験。そんな物騒なことが自分の目の前で起こるなんて想像もしていなかったことが実際に起こったのです。
結局、テロは起こりませんでした。でもその時、本当に驚いたのは現地の人たちの反応でした。テレビのニュースを見ても話題にならないし、誰もが何もなかったかのようにいつもどおりに過ごしていたんです。
これが日本だったら、大騒ぎ間違いなしです。
その時は「なんと図太い国」としか思わなかったのですが、その後、20数年経ってISからのテロが起こった時にやっと英国人のテロに対する考え方が判りました。彼らは「攻撃されてもダメージは受けない」ということを表明するために平静を保っているのだと。言い換えれば「この程度じゃ気にしないぞ」というメッセージだと思います。
「これこそ本当の強さだ」と思うようになってから数年。
今回のテロでも「当局は動き回るけれど、市民は冷静を保つ」という英国流の対応がなされたように思っています。彼らならどんなにテロが続いても、最後には打ち勝つはずです。冷静さこそ勝利への道ということを知っているのですから。
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