∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

さあ、そろそろ避難するぞ

【花見の季節・上野編】

 「今年も人間が我々の棲家に大挙して訪れる季節がやってきた。きっと淡いピンクの花が咲くからだと思う。さあ、グループごとに分散して静かな場所に避難しよう」。
 「長老、どうしていつもの場所にいてはいけないんですか。やっと過ごしやすくなってきたのに」。
 「我が孫よ。それはな、見たこともないほど多くの人間が、いつも我々が棲家にしている木の下で大騒ぎして、我々に危害が及ぶこともあるからだ。しかも餌を探そうにも地面が見えないほど人間が群がってしまうので、餌もついばめなくなるんだ」。
 「判りました。では、どこに避難するんですか」。
 「ひとつのグループは、公園の向こう、上野桜木や谷中に避難してくれ。もうひとつのグループは台東区役所近く下谷神社付近だ。少し遠いが、御徒町多慶屋の裏、御徒町公園付近にも逃げてくれ」。
 「それから、浅草や隅田公園にも近づかないように。観音様の境内には仲間がいるし、公園はここと同じように人間でいっぱいになるからな。どうしても行くなら今戸神社待乳山聖天に向かってくれ。寛永寺霊園や谷中霊園も避けるように」。
 「小さなグループなら藝大美術棟の横、寛永寺大黒天や東博近くの寛永寺両大師でもいいぞ」。
 「ただし、寛永寺本堂は近寄らないように。もうすぐ寛永寺幼稚園の入園式だからな。小さな子供だからといって侮るな。追い回されるとやっかいだ」。
 「いつ頃避難を始めるんですか」。
 「明日は雨が降りそうだから、ここで夜をあと二回過ごしてからだ」。
 「ここにはいつ頃帰ってこれるんですか」。
 「ゴールデンウィークが終わってからだ。その頃、我々の棲家には若葉がいっぱい育っているぞ」。
 「さあ、それぞれ今のうちに計画を練っておいてくれ」。

 上野公園や不忍池界隈の鳩たちの間でこんな会話が交わされる季節がやってきました。毎年、開花宣言が宣言されると桜が咲いているかどうかなどお構いなく、次の日から上野公園は人がドッと押し寄せ、そこを居場所にしていた鳩は一斉に公園周辺に避難するんです。
 おかげで近くの住宅もマンションのベランダも鳩のフンだらけに。それでも、ご近所の皆さんは「花見の季節だからな」と諦めています。昔のように居座ることもなく、5月下旬になれば自然と帰っていくの知っているからでしょう。
 ちなみに、不忍池は何年も掛けて池周辺で改良工事をしていますが、今年も花見シーズンが終わるまでは休工になります。

 上野から谷中方面には、本数は少ないものの「ひっそりと咲き誇っている桜」を愛でることができる場所がほかにもあります。でも、これらの場所は僕だけの秘密にさせてください。

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