∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

プロショップとは何かを教えてくれた店

【今や昔。様変わりした日比谷】

 確か、大学2年生の時でした。当時、モノクロ写真に色を付ける「人着」にハマっていた僕は人着用の上質なインキを探していました。
「人着用のインキを探しているんですが、どこか教えてもらえませんか」。
「それなら日比谷の三信ビルの中にあるノックス・フォト・サーヴィスという店がいいよ』。
 先生だったのか、助手の方だったのか忘れてしまいましたが、答えがすぐに出てきたことだけはいまだに覚えています。

 次の日、さっそく行ってきました。まだグーグル・マップなんて便利なものがない頃の話です。有楽町駅からウロウロキョロキョロしてようやく辿り着いたビルはアールデコ風なデザインの歴史を感じさせるもの。こんな所にある店なのかと緊張しながら探していると、ありました。英字でKNOX PHOTO SERVICE CO.,LTDと書かれた文字がガラスのドアに印字されていました。
 ソッとドアを開けて店の中に入るとスーツを着た店員さんがいらっしゃいませと言ってくれました。正直なところ、すでに緊張感でカチカチになっていた僕は「人着用のインキはありますか」と言うのが精いっぱい。勧められたものをそそくさと買って急いで店を出てしまいました。

 僕がプロやハイエンド・アマチュアが愛用する「大人の店」とはどういう店なのかを知ったのはこの瞬間でした。行きつけにしていた写真機材の量販店とはまったく別世界に存在している店だったのです。この店で手に入れた機材や材料を使っているだけで上手くなったと勘違いするほど「崇高さ」に溢れた店と言ってもいいでしょう。
 それ以後、何度か訪れているうちに緊張感は薄らいでいきましたが、それでも特別な店で買物をするのだからという「精いっぱいの背伸び」をしていた事を覚えています。

……………

 そんな特別な店が都市再開発を伴うビルの建て替えで閉店してから数年経ち、東京ミッドタウン日比谷という名前でオープンしました。
 まだオープンしてから数日しか経っていないため大混雑しているのは目に見えています。スタッフもお客さんも気合いが入りすぎている時期が終わるはずの数カ月後、あの懐かしき場所がどう変わったか確認しに行きます。ショップリストにノックス・フォト・サーヴィスの名前がないのでいつ行っても僕にとっては同じこと。物珍しさだけで訪れてよさそうですから。

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