【気になるスニーカーの原点】
19世紀半ばに天然ゴムの加工法(加硫)が発明されて約50年経った頃自動車用のタイヤが発明されましたが、それに留まらずゴムを活用した商品が次々と誕生していきました。
スニーカーもそのひとつ。当初は革靴の代用品でしたが、グッドイヤーがヴァルカナイズ製法という製法を特許登録してからスニーカーの立場は一変しました。
1950年台になると確たる市民権を得て、アスリートや若者を中心になくてはならない存在になったのです。
J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』の主人公、ホールデン・コールフィールドが履いていた、翻訳ではズック靴と表現されている、白のスニーカーはシアーズ・ローバックの通販カタログにも登場していたケッズのスニーカーでしょう。
映画『ウエストサイドストーリー』でジェット団のメンバーが履いていた黒のバスケットシューズは日本製だと言われています。
スポーツシーンでの象徴的な使われ方として、第35代アメリカ大統領J・Fケネディの写真集に収められたハイヤニスポート沖でのセーリング中の1カットにに写っているトップサイダーの白のデッキシューズも忘れられません。
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ところで、靴は小説や映画の中でその人の人となりを表すためによく使われるものです。たとえばイギリスの銀行を舞台にした小説の中にはローファーで出社したアメリカ生まれの若者に対して古風なイギリス紳士然とした頭取が『キミ、仕事をする時には靴を履きたまえ』と言い放つシーンがわざわざ差し込まれていますが、これだけで英国の封建的な思想が判ってしまいます。
スニーカーも同様。スポーツシーン以外で履いている場合はステイタスの低い若者と読み取って間違いはないでしょう。
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そうなんです。1940年台後半から60年台半ばに掛けてスニーカーは履く人の個性や信条だけでなく立場や地位までも表すことの出来るアイテムに育っていたのです。
ところが合理的な製法で大量生産、低価格を追求するのは世の常です。手間のかかる製法に打って変わるものが出てくれば、新製法が主流になるのは当然でしょう。そんな時代の流れの中で消えていったブランドも存在します。
『BALL BAND』
現在でも製造されているケッズ・ブランドの兄貴分に当たるブランドで、極めて古典的な製法で作られたものでした。
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そのブランドが当時の製法のまま復刻されたようなのです。いわばスニーカーの原点が現代に蘇ってきたわけです。
僕はこういう登場の仕方にはめっぽう弱いんです。スニーカーは履かないという信条を破ってでも履いてみようかなと思ってしまうんです。見るだけにするか、それとものめり込むか。さて、どうしたものでしょう。
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