∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

勝ち組ミュージアム

◇鳥居清長、喜多川歌麿東洲斎写楽……。現在、山種美術館で開催されている『錦絵の黄金時代展』には江戸時代、いや、日本を代表する錦絵の大家の作品が150点近く展示されている。今回のコレクションはボストン美術館所蔵のものばかりで、初めて日本に里帰りした作品も多いらしく、サブタイトルには『ボストン美術館浮世絵名品展』の一行が記されている。
今回は美人画を中心に構成したコレクションだが、浮世絵版画だけでなく、肉筆画や、和綴じの本になった版本まで、名品ばかりが展示されている。特に、雲母摺り(きらずり)と呼ばれる、雲母を使い、シルバーの光沢を出した美人画には圧倒的な存在感がある。
◇実は、僕が浮世絵に興味を持ったのは20年以上前、ボストン美術館歌麿のコレクションを見た時から。その時は素直に「浮世絵ってこんなに迫力があって、キレイなものなのか」と感じた。日本のものでありながら、まったく見たこともない美の世界がそこにあったのだ。
その時、同時に仏像のコレクションも見ることが出来たのだが、正直なところ、あれだけ多くの仏像が集まっている所には未だに出会っていない。
残念だが、多くの仏像が展示されている東京国立博物館法隆寺館もボストン美術館の規模には及ばないと感じている。
ボストン美術館が日本美術の宝庫だとすると、ロンドンのヴィクトリア&アルバートミュージアム古代エジプトやインド美術や東南アジアの美術の宝庫だし、ニューヨークのメトロポリタン・ミュージアムには世界中から集めた貴重な美術品が数えきれないほどコレクションされている。
イヤな見方をすると、大英帝国の威光で集めたコレクションだったり、戦勝国の地位と財力をフルに活用したコレクションだったりするわけだ。
結果的に、人類の美術遺産を保護するベストな方法だということは分かっているし、冷静に価値を判断し蒐集してきた真摯な姿勢も理解出来るのだが、それでも、その貪欲な姿勢には若干の抵抗が残る。
特に、コレクションを実際に見ている時には、美術遺産の素晴らしさに圧倒されながら、「どうしてここまで根こそぎ集め自国に持ち帰ってしまうのか」とか「勝ち組だから出来たこと。価値判断は後付けだったのでは」と冷ややかに感じ、悔しさと情けなさが、頭のどこかに浮かび上がってくるのは僕だけではないと思う。
◇日本が古典的な美術遺産をないがしろにしていた時代に、イギリスやアメリカは力の限りを尽くしてコレクションを拡大させてきた。そしてその遺産は、もう日本には戻ってこない。良くて「里帰り」するくらいだろう。大げさに言うと、本当の日本の伝統美は海外でしか見られないのだ。
もう二度とこんな悔しい思いをすることがないよう、日本も美術や歴史的遺産の「勝ち組」にならなければ。
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