∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

身体で覚えること。柔軟であること。

◇よく職人の世界では「仕事は身体で覚えるしかない」と言われるという。しかし、どんな仕事でも、いや日常生活でもそうだが、習慣になり、何も考えずに進められることのほうが多いのではと思うことがある。
 習慣というルーティーンは、何かをやる時に身体が先に動いてくれるからこその動作なのだから、なにも言うことはないだろう。
◇では、仕事上はどうだろうか。職人だけが仕事を「身体で覚える」のだろうか。
 僕は、かなり長い期間携わってきた仕事を退職した後、まったく畑違いの職種にトライした。実はその頃は、「もう以前の仕事には関わらない」とまで決心していたのだが、巡り合わせだろうか、その後また携わってきた仕事をベースにした仕事をすることが多くなった。
 その時、もっとも心配だったのは「昔のことを覚えているかな」ということ。仕事の進め方もそうだし、細かなルールややり方を忘れてしまい、周囲の人に迷惑を掛けるのではないかという不安が、常に頭の片隅にあった。
◇ところが、いざ仕事をはじめてみると、まさに「身体が覚えて」いてくれた。もちろん、ネットワークの再構築や細かな戸惑いもあったし、忘れていたこともあったが、仕事にのめり込んでいくうちにクリアしていった。ネットワークの再構築のような相手がいることでさえ、やり方さえ思い出せば、後は時間が解決してくれた。
◇そんな時に僕が最も注意したのは「身体が覚えていること」に頼りすぎて、新しい技術やメディアに目を向けられなくなることだった。常に最新のテクノロジーを味方につけて仕事をしていくことほど、大切なことはないと思っていたからだ。
 職人の世界には「身に付けた技を一生磨き上げていけばいい」と言う人がいる。磨き上げた自分の技を信頼しすぎて、今いる世界から踏み出せなくなった時、自らの可能性は閉ざされるということに彼は気づかないだ。だから、僕はそんな世界観だけは持たないようにしようとしてきた。時には無理矢理、自分に言い聞かせたこともある。
 頑固であることは仕事に対する姿勢だけ。仕事の方法論は常に柔軟で新鮮でありたい。こんな考え方でここまでの数年を過ごしてきた。正直なところ、最初は違和感があり、苦しい時もあったが、今ではこれが僕流だと実感できるようになっている。
 好結果が出たとは口が裂けても言えない状況だが、それでも、確かな手応えのある数年だった。この手応えが、僕の今からの道を切り開いてくれるだろう、と思っていたい。
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