∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

江戸伝統工芸**江戸すだれ**

【七夕、そして小暑


 今日、7月7日は七夕。そして二四節季の「小暑」でもある。暑さが徐々に本格的になる頃で、梅雨明けの時期でもある。
 夏の暑さが本格的になってくると、何事にも涼しい工夫を凝らしたくなる。特に今年は“節電”の年。エアコンは控えめに設定したり、ゴーヤを植えてグリーンカーテンを作ったりと、何かに付け昨年までの夏景色とは様変わりしている。


 下町の町家の窓に掛る「すだれ」が涼しげに感じる季節が来た。風が吹き、ハラッと「すだれ」が動いたりすると、きっと涼しい風が室内を通り抜けているのだろうと想像してしまう。
 また、料亭や旧家などでは、室内のふすまや障子を「すだれ」に換えて風通しを良くしていることだろう。


【江戸すだれ】


 すでに平安時代から使われていた「すだれ」は、京都や伊予のものが有名だが、江戸期からの伝統を守り作り続けられてきた江戸すだれも最上級の称号を持っている。
 京都や伊予と比べ、江戸すだれは天然素材の持ち味をもっとも引き出したものと言われている。ほかの伝統工芸と同様「すだれ」の世界でも、江戸モノは華美な装飾性を排し、使い込むにつれて味わいが深まる「削ぎ落した美意識」を持っている。


 竹、葦(よし)、蒲(がま)、御形(ごぎょう)。「すだれ」の素材として多く用いられているのはすべて古来から日本各地に生息していたものである。
 竹は細く割り、竹ひごにして使用するが、ほかの素材と違い、表と裏が出来、節の表情も意匠の一つとして利用できるため、室外用の「すだれ」として多用されている。
 葦などの素材は雨には弱いが、細く丸いため、室内用として活用されることが多い。
 どの素材にしても、一本ずつ細紐で編んでいき上下を止めて、左右を切りそろえることで「すだれ」は完成する。


 ちなみに両端を絹地のフチを付けたものは御簾(みす)と呼ばれ、平安時代から宮廷や貴族の屋敷などで使われていたが、これは風通しを良くするためよりも、直接、顔を見せることがないようにという効果と、下々の者と高貴な方との間に「結界」を作るという意味があった。


【料亭や花街と江戸すだれ】


 現在、東京で伝統的な江戸すだれを作る工房の代表格は浅草、深川、赤坂などに集中している。いずれも江戸期から料亭や花街として栄えた地域である。
 江戸の場合、上級のしつらいは料亭などがリードしていたからだろうか。料亭の夏のしつらいをが富裕な商人が取り入れたのをきっかけにして、町人文化として定着していったと考えてもおかしくはないだろう。
 もちろん、それとは別に公家文化を取り入れた武家のしつらいも存在していた。つまり、江戸すだれは、武家と町人、ふたつの文化と意匠を背負っていると言ってもいい。
 暑い夏を少しでも快適に、そして粋に、上品に。江戸すだれには、江戸の人々の夏の過ごし方が生きている。


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