∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

江戸伝統工芸**江戸指物**

【家具職人】


 ひと口に家具と言っても、机や椅子などの「足もの」、箪笥や化粧台や乱れ箱などの「箱もの」、ふすまや障子などの「建具」といったように種類によって区分けされている。名前が違うくらいである、それを得意とする職人も違っていて当然だ。大工の世界に一般的な町家を作る大工以外に、宮大工や船大工という区分けがあるのと同様である。
 パーツセットを買って自分で組み立てる家具が多くなった今でも、親子3代に渡って使えるような上質家具を選ぼうとすれば、確かなワザを持った職人が丹精込めて作ったもの以外に選択肢はない。 そんな上質家具に囲まれた生活ならではの「潤い」や「上質な空気感」「過去から未来へ続く時の流れ」をもう一度見直す時が来ていると感じているのは僕だけだろうか。


【江戸指物


 指物の伝統は平安時代の宮廷文化に始まるとも言われている。そのため、指物も、ほかの多くの工芸品と同様、京都で発展してきた。特に、公家や茶道界で使われる道具とその意匠が今でも生活の中に生きている。そのため、雅であることや「わびさび」の精神に通じるものなど、独特の意匠や優雅な装飾性を持ったものが多く作られてきた。
 それに対し、江戸の指物は将軍家を代表とする武家用と商人用、そして歌舞伎役者用という3つの「お得意様」を対象にしたものが多い。
 当然、求められるもの京風とは違い、質実剛健で狂いがなく、長持ちし、移動時にも壊れることないという独特の世界観を持ったものになっていった。


 意匠の違いだけでなく江戸指物の大きな特徴として忘れてならないのがその工法。一切、金釘を使うことなく、一見すると繋ぎ目が見えない組手を使っている。職人の高い技量が見えない所まで要求され、実現しているのが江戸指物の醍醐味である。
 

 また、製材後も生きている木を使うことをふまえ、反りや歪みが収まるまで充分に枯れさせた無垢材を使っていることも重要なポイント。20年程度枯れさせた素材を使うことが当然だという。
 素材としては、欅、桑、杉、栗、タモ、黒柿など木目が綺麗ではっきりしているものが使われる。このような素材を使い、顧客の好みに合わせたうえで、素材の持ち味を生かしたモノ作りをするのも江戸指物の特徴である。


【生きざまを反映する家具】


 一切の妥協を排し、見えない所まで気を配り、後世に伝わる家具を作る。江戸指物にはこんな江戸の職人気質が生きていると言っていいだろう。その気質は、武士道精神につながるものでもあり、芸事の極みを追求する歌舞伎の世界観にも似た所がある。
 江戸で生まれ、現代も輝いている伝統工芸は、それを愛した人々の思想や生活感が反映されている。だからこそ強い存在感を放ち続けているのだ。


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