∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

復権する価値観

【僕の周りから聞こえる声】


 僕の周りからこんな声が聞こえてきます。
 「着物文化は昭和30年代に終わったわ」。「グラスといえばバカラでしょ」。「グリーンカーテンが流行」。「ファスト家具がおしゃれよね」。「漆ってかぶれるんでしょ」。「エレガントなテーブルマナーは必携でしょ」。
 そんな中、こんな声も混じっています。
 「古着の着物って素敵」。「古っぽいけど、いいかも」。「なにげの伝統工芸って知的なんだよね」。「お箸がアジアン・ピープルの証明って知ってた?」。


 いろいろな声が入り混じっています。
 でも、ちょっと気になるのは、伝統工芸や古き佳き日本文化を見直そうとしているのが、全員、若い人ということなのです。同時に年齢を重ねるに連れて、伝統工芸は資産と考えている人が増えてくる、という印象も感じています。
 

【伝統的な文化との決別の時】


 日本は第二次世界大戦終了と昭和30年代の高度成長期に、それぞれ、それまでの文化に決別してアメリカ文化を信奉するようになったという方もいらっしゃいます。当時は、数百年間共生してきた文化を捨て去ることこそ、新しい日本の生きる道なのだと極論する方も多かったと聞いています。
 ちょうど僕が少年だった頃、こんな意識が日本を覆っていたと記憶しています。確かに日本は一新しました。経済的にも豊かになり、教育も文化も世界レベルで物事を見つめることが大切だと考えられるようになった時代です。
 僕も白黒テレビで見る“豊かなアメリカ”に憧れ、音楽もファッションも食べ物も、なにもかもアメリカナイズされたものが「かっこいい」と信じていました。


【そして、今】


 「これが伝統工芸だなんて知らない」という若い人たちにとって伝統工芸は新鮮で強いインパクトを持つ世界に映っているようです。
 伝統的な文化との決別というドラスティックな方向転換をした時代の真っ只中にいた層とは違い、若い彼らには「昔の記憶」とか「堅苦しさ」「古臭さ」といった印象がないのでしょう。素直に「素敵なもの、見つけた」と純粋な気持ちで「新鮮な発見」を喜び、自分なりに楽しんでいるのです。
 この現象こそ、古典的な考え方では思いもよらないような使い方や着こなし方が出来る世代が登場してきた証明ではないでしょうか。伝統工芸が生活の中で「当たり前」だった世代からは、ある種の抵抗や見下した声が聞こえてきそうですが、そんな雑音をかき消すほど、若い人たちの「古き佳き文化」への興味は高まっていると確信しています。同時に、彼らが新たな地平を開拓するだろうという予感もしています。


 人は想像以上の変化を強いられた時、それまでの常識を捨て去り、新たな生活の舞台を作り出すものです。その時に生じる新鮮な刺激こそ新たなムーブメントを形作る原動力になるのでしょう。
 従来の価値観に微妙なズレが生じ、全方位の探索で新しい文化を探し求めはじめて何年くらいになるでしょう。今、見捨てられた存在だった伝統工芸に新たな風が吹きこもうとしています。
僕は宣言します。
 数十年間埋もれていた伝統工芸の世界を正しく評価する新しい視点や視野に期待しつつ「時代にマッチした伝統工芸」を提案する時が来たと。


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