∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

ほっかむり体質

【正と負の食の世界】


 東京・湯島に小さな蕎麦屋さんがあります。蕎麦会席をはじめとして、早い時間ならそばがきまで食べさせてくれるお店です。小ぎれいにまとめられた玄関を入るとテーブル席と小上がりの席がそれぞれ4〜5卓ほどの静かなお店です。
 そば味噌とお銚子、そばがきと二本目のお銚子、そして才巻海老のかき揚げ蕎麦で締めるような粋なご隠居が似合うお店といってもいいでしょう。
 この店の才巻海老のかき揚げ蕎麦ほど海老の旨さを引き出した蕎麦はないと確信しています。もちろん、活けの車海老を載せた天ぷら蕎麦を出す店もありますが、ここの才巻海老にはかなわないと思っています。
 初めて食べた時、味わいの深さやプリプリとした食感の心地よさに驚き「これが海老というものなんだ」と感動したものでした。芝海老のかき揚げとはまったくレベルが違います。
 ちなみに、この店で働く人たちは、これだけ素晴らしいものを出しているのにもかかわらず「これが当たり前」と教育されているのでしょうか、どこにでもある蕎麦屋の店員さんのように笑顔でかいがいしく働いています。


 正直に、きちんとした素材をきちんと料理して、感謝の心を込めて食べていただく。これこそ老舗の老舗たる由縁。いや、老舗でなくとも多くの人たちから愛されている店はみな同じ姿勢で“仕事”をされているはずです。
 だからこそ、客も安心して食べられるし、満喫できるし、お金も払えるんです。


 日本全国を探せば、こんな店はいくらでもあるでしょう。それなのに、どこかのホテル2軒は……。
 経営陣もキッチンも精度の高い、日本の“食”と真正面から向き合ったことはなかったのでしょうか。メニュー表記はちょっと大袈裟だけど、ホテル名という“ブランド”でカバーしておけばいいとでも考えていたのでしょうか。レストランがこの状態だと従業員のレベルや客室のコンディションまで気になってしまうのは僕だけでしょうか。
 人の噂も七十五日。知らぬ存ぜぬで「ほっかむり」しておけば、そのうち追求の手も弱くなるはずだ、とでも思っていたのでしょうか。
 そしてもうひとつ。外国人総支配人がコメントした「こんなに厳密な対応を迫られるのは日本ならでは」という発言を裏返すと世界でも有数のホテルであってもイメージ優先のプレゼンテーションでまかり通っているのでしょうか。少なくとも、僕が幸運にも泊まることの出来たロンドンとボストンでは「ほっかむり体質」は見当たらなかったのですが。


 この問題、まだまだ決着はつかないだろうと想像しています。出来ることなら、今の混乱の時期を乗り越えて真のラグジュアリーホテルのなってほしいものです。


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