∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

谷中の夏景色

【八月といえば圓朝まつり】

 東京下町の谷中は、深川や稲荷町と同様に、江戸時代から寺町として静かに息づいてきた街です。七月半ばの盂蘭盆会を過ぎ、藪入りの風習から定着した八月中旬の旧盆までの1ヵ月間、谷中も暑さをこらえながらの静かな時を迎えています。
 実は、この時期の谷中は「ゆうれい」にスポットライトが当たる時期といわれてきました。
 千駄木から忍ケ丘の高台へ上がる三崎坂の途中に『全生庵』というお寺があり、怪談噺で人気を博した江戸から明治にかけて噺家三遊亭圓朝』のお墓が眠っています。このお寺には、圓朝師匠が収集していた円山応挙を始めとする画家たちが描いた50幅もの幽霊画が保存されています。その展示などが行われてきたこともあって、毎年、旧盆の時期には落語好きな人たちを中心に圓朝師匠を偲ぶ催しが行われてきました。

 実は僕、怪談噺も幽霊画も好きではありません。早い話が怖いんです。できるだけ避けてきました。谷中に引っ越してきた頃、この全生庵で「圓朝まつり」が行われていることを知ってから、この時期の三崎坂は僕にとって通行をはばかる坂道になってしまったんです。なんだか昼間からおばけが出そうな気がしてしまい……。
 これまではそれで済んでいましたが、今年はなんと、上野公園の谷中側にある東京藝術大学で全生のコレクションを始めとした「幽霊画の展覧会」が行われることになってしまいました。大げさに言うと言問通りの左右、忍ケ丘一体がおばけだらけになるわけです。
 見ないように、気が付かないように。できるだけ不忍通り沿いだけ、せいぜい藍染川通りまでを通るようにして静かに走り回ることにします。
 
 師匠。今年も師匠の噺が絵となり、催しとなって蘇ります。よろしければ、お墓を抜け出して谷中の街を散策されるのも一興ではないでしょうか。

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