【年の数よりひとつ多く】
「おばあちゃんも年の数足す一個食べるん?」。ある節分の夜に僕はこんなことを祖母に尋ねました。祖母も母も笑いはじめ、とうとう答えを聞くことをできませんでしたが、祖母が節分の豆を数個しか食べなかったことだけは覚えています。
ほかの地域ではどうなっているのか判りませんが、我が家では節分の夜には「鬼は外、福は内」と言いながら家中に撒き散らした豆を拾い集め「良い年を迎えられるように」と歳の数よりひとつだけ多い数を食べることになっていました。
集めるのが面倒なので、足元にチョロッと落としていると「もっとパッと撒かないと鬼が逃げていかないよ」と言われ、撒き直したこともあったように記憶しています。
ちなみにその豆は母が生のものを買ってきて「ほうろく」でザーラザラと炒ったものでした。きっと今のように炒ったものなど売っていなかったのだと思います。
今日は節分の日。今では節分の豆には福豆という名前がつき、小分けしたものが売られるようになりました。
しかし、それ以上に注目を集めているのは、子供の頃にはまったく知らなかった「恵方巻き」なる太巻寿司でしょう。大阪船場の旧家の風習が由来と言われているようですが、本当にそうなんでしょうか。
電車で1時間以内にまとまっている京阪神エリアは近くてもまったく違う風習を持っているエリアだけに「知らないものは知らないし、知りたくもない」というところです。
あの太巻を食べるなら穴子の箱寿司のほうがよほどいいと思ってしまうのは僕だけではないはずと思っています。
ほんの少ししか豆を食べなかった祖母も、隣で笑っていた母も、父と一緒に仏壇の中にいます。みんな仏壇の中で「鬼は外、福は内」と言いながら豆を撒き、ポリポリと食べているでしょうか。
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