【歌丸師匠を偲んで】
歌丸師匠が亡くなって数日。多くのエピソードが伝えられていますが、なかでも「言葉を大切にすること」と「芸とは何か」というふたつのキーワードに心を打たれました。
のめり込むほどの落語好きでもないし、『笑点』を見続けてきたわけでもない。そんな僕にとって師匠が残された言葉は自分を見つめ直すきっかけのように感じています。
「言葉を大切にする」を「言葉を荒らさない」、「芸」を「積み重ねて磨き上げてきた能力」と置き換えて考えると、そこには物事の本質が隠されているようです。
「エッジーな言葉」や「ショッキングな用法」を探すことや「上位の検索結果が期待される言い回し」が言葉を紡ぐための条件になった今、師匠から教えていただいたのは「美しい日本語」を忘れるなということだったのではないでしょうか。言葉は生き物なので、新しい語法や用法が出てくるのは当然ですが「磨くことはあっても荒らしていけない」とおっしゃっていたと僕は理解しました。
言葉にしろ何にしろ「奇を衒った言動」に持続性はないということも教えていただきました。その場限りの姑息なものではなく、読む人や見る人の記憶に定着するものを見つける能力を持つことこそ「言葉を磨き上げる」ために必要不可欠だと教えていただいたように捉えています。
古典芸能としての落語ではなく、あくまでも大衆芸能としての話芸を堪能させてもらった師匠。生涯現役とは何かを体現してもらった師匠。
ワザを極めることの奥深さと真髄も教えていただいていたということに、亡くなった今、改めて気づかせていただきました。
どうぞ、安らかにおやすみください。師匠の教え、心に刻んで生きていきます。
[2803]