半夏生の時期に旬を迎えるマダコ
スーパーで食材を買い込んでいたら「半夏生にはタコをどうぞ。本日はいつもより吟味したものをご用意しました」という店内アナウンスが聞こえてきた。雑節が身近な存在だった頃なら、なるほどとうなずくところだが、今でもタコのセール時期として残っていたとは驚きだった。
特に関西では、古来から半夏生の時期にはタコを食べると良いとされてきた。タコの吸盤が吸い付くサマにあやかって「田植えが終わったばかりの苗がしっかりと根を張るように」という験担ぎだという。それに対して野菜は食べないようにと戒められていたという。
水害などで被害を受けて食中毒や感染症の恐れもある野菜は食べないようにという古来の民間伝承は、なんとなく、分かるような気もする。だが、半夏生だからタコを食べるという言い伝えには疑問が残る。
関西には明石産を始めとしてタコの旨さを知っている人が多い。もちろん、旬のものは旨いという食の常識もよく分かっている。
そんなことを考え合わせると、真夏の始まりにはタコを食べる風習は「半夏生だから」ではなく「旬だから」と考えたほうが合理的なように感じる。
田植えが終わってひと息付いている人々が「旨いものでも食べようじゃないか」と盛り上がった時に閃いたのがタコだったのではないだろうか。
こんな時に選ぶのは夏に旬を迎えるマダコ以外には考えられない。けっしてミズダコやイイダコではない。
生でも、茹でても、湯引きした半生でもいい。刺身でも、酢の物でも、タコ飯でも、軽く炒めてもいいわけだ。もちろんお好み焼きやたこ焼きでもいいし、今風ならアヒージョでもいいだろう。
ちなみに、地中海周辺に住む人以外には“悪魔の魚”と言われることも多いが、きっと食べず嫌いなだけだと私は信じている。
よし、今夜はタコ飯にしてみよう。我が家の猫たちに横取りされない方法が見つかればの話だが。
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[season13┃03 Jul. 2023┃13:00 JST]
┃HASU:nelumbo nucifera(3/3)┃sinobazu pond, taito city.
Photographed on 25 Jul. 2021