∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

江戸伝統工芸**組紐**

【仏教伝来】


 西暦538年に仏教が日本に伝来した。この頃から日本が新たに大きく動き始め、100年後の645年には大化の改新があり、聖徳太子による政治が行われるようになった。
 仏教が日本にもたらされたというが、同時に政治、思想、文化、技術など社会を動かし、支えていくことになる要素が渡来したと言ってもいい。単に新しい宗教が伝来したというような一面的なことではなかったワケだ。
 この仏教伝来の時に日本に伝えられた技術のひとつに組紐がある。経典や仏具の飾り紐として使われていたものが組紐の原点。正倉院の御物などにも組紐が飾りとして使われているものが存在する。


組紐


 経典、仏具の飾り紐から始まり、礼服用の紐、武具用の紐、茶道具の紐など、礼や位を重んじる装束や道具と、強度を重視する武具に使われることで組紐の世界は発展していく。
 平安時代には貴族の装束として、鎌倉時代には武具や馬具として、それぞれ独自の組み方や色遣いが考案された。その後、美術工芸を奨励した秀吉の治世には専門の組紐職人が登場する。
 女性の着物で「小袖」という現代の着物に近いスタイルが流行し始める江戸中期以降になると、女性用の帯締めとして色鮮やかなものが作られるようになった。
 組紐は長い時間を掛けて、宗教、儀式、武具、装束というようにあらゆる状況で使われるようになると同時に工芸としての地位も確立していったワケだ。


 組紐には大きく分けて「角打ち紐」と「平打紐」、そして「丸打紐」の3種類がある。
 また、紐を組みあげていく組み台には、角台(かくだい)丸台、綾竹台(あやたけだい)、重打台(じゅうちだい)、高台(たかだい)、内記台(ないき)、篭打台(かごうち)の7種類がある。
 紐の形、組み方などによって違いがあるわけだが、それぞれ完成した紐の強度や伸び方などに違いがある。「強さ」「しなやかさ」「光沢感」「色彩表現」など用途によって、職人が開発してきたもので組紐を作り上げる基礎になっている。
 そんな歴史があるからこそ、「真田紐」や「三分紐」のような武士の美意識と伊達ぶりを競うために進化した紐が登場したり、平打紐を多用した女性用の帯締めが登場したのだろう。つまり組紐の美には1500年の歴史の積み重ねがあると言ってもいいのだ。


【東京組紐


 組紐の産地としては伊賀地方が有名だが、武士の街、江戸にも組紐職人は多くいたと想像できる。そんな武家好みの伝統を受け継いでいるのが「東京組紐」である。台東区墨田区、そして中央区には、多くはないが、手のしっかりとした職人や問屋が存在している。
 京都の雅に対し、江戸のワビサビと言われるように、東京組紐はどちらかというと渋い色遣いが特徴である。単に組紐の糸の色が渋いだけでなく、組み方そのものにも工夫があり、いっそう渋くシャープな印象を作り出している。
 今では、女性の着物姿や羽織の紐が一番の舞台になった感のある組紐だが、組み方そのものは多くの分野に活用され、機械生産されるようになった。
 そんな時代に糸を一本ずつ手で組み上げていく組紐には工芸を超えた「美の世界」が備わっているといっても過言ではないだろう。


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