∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

ありがとう、コダック

【時代の終焉】


 先日、コダックが経営破綻したというニュースが流れました。まさか! としか言いようのないニュースです。プロ、アマを問わず、すべての写真関係者にとっては「あって当たり前」のメーカーが破綻するなんて想像もできませんでした。
 ただ、アメリカの古い企業らしく宗教観に裏打ちされた共存共栄や人情を大切にするコダックらしく、徐々に経営を縮小して関係各社に与える被害を最小限に留めたとのこと。それだけでも良かったとしなければいけないのでしょうか。


 百数十年前、コダックはフィルムの入った露出計付きカメラを売り出しました。撮影済みのフィルムが入ったカメラをコダックのラボに送ってもらい、現像とプリントと新しいフィルムの装填をして送り返すという仕組みを考え出してアメリカに写真の大ブームを引き起こしました。その仕組みは数十年経った、僕が子供だった頃までエクタクロームフィルムの現像方法に活用されていました。
 

 第二次大戦後、カラーフィルムのカラーバランスがまだ不安定だった頃です。イギリスに『ラッテン社』というフィルター・メーカーがあり、コダックはその技術をどうしても手に入れたいと思い、主任研究者をヘッドハンティングしようとしました。
 しかしその主任研究者が「ラッテン社から奨学金を得て大学でカラー・フィルターの勉強をさせてもらった」のでどうしてもヘッドハンティングには応じられないとオファーを拒否。そのためコダックはラッテン社を買収、生産拠点はイギリスに置いたままにし、ラッテンというブランド名も残しました。当時、ひとりの人間が抱く義理人情を大切にした買収と言われたと聞いています。


 戦争も宇宙も映画もファッションも研究資料もすべてコダックのフィルムが記録してきました。
 写真を専攻していた僕のような人間だってコダックのフィルムにどれだけお世話になったか。ましてやプロともなると、コダックなしでは仕事ができなかったのではと想像しています。
 学生時代はアルバイトで稼いだ金でトライXやプラスX、マイクロXのモノクロフィルムを手に入れ、HC110という濃縮現像液で現像していました。アルバイト先でポジフィルムを使うことがほとんどになり、始めてK=2の色再現の素晴らしさにびっくりしました。KMの赤み、KRの色再現のバラつき、エクタクロームの青さ……。すべてラッテンのCCフィルターで補正しながら撮影するというワザもその頃習得しました。
 トライXを増感現像してガチガチの写真を創って、銀塩粒子の実際を体験し、プラスXで減感現像して粒子のエッジを立たせずに柔らかな写真を創るワザも体得しました。そういえば、コダックのカラーチャートで色彩学の初歩まで勉強したことが、20年以上経ってアドビのフォトショップを使いこなすうえで非常に役に立ったことも思い出してしまいました。
 しかも、黄色に黒というパッケージカラーが最も力強く安価に見える色の組み合わせだということや、微細なガスからフィルムを守るため、パッケージ用の印刷インキを改良させたということなど、写真と直接関係ないことまでコダックは教えてくれました。


 写真のデジタル化を見越して非常に速い時期から研究を開始したにも関わらず、デジタル化の波に乗ることが出来なかったという皮肉な結果に終わってしまったコダックの終焉はアナログ写真の終焉といってもいいでしょう。
 ありがとう、コダック。本当にお世話になりました。


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