∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

東京スカイツリー駅

古今和歌集


 名にし負はば いざこと問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと──在原業平


 平安時代歌人在原業平が遠く離れた地から故郷を想い詠み、古今和歌集に入集されているこの歌には台東区墨田区を結ぶふたつの橋の名が隠されています。「いざこと問はむ」は言問橋、「在原業平の名」は業平橋として。ちなみに都鳥は「ゆりかもめ」と名を変えて隅田川でも羽を休めています。
 また、業平橋東武鉄道の駅として親しまれてきました。始発の浅草駅の次で、普通電車しか止まらないひっそりとした駅です。近くには墨田公園や向島花柳界、アンティーク家具関係の会社や竹材問屋などがあるものの、基本は下町の住宅街です。


 ところが、このひっそりとした駅と街に一大変化が起こりました。東武鉄道都営地下鉄京成電鉄の三路線が乗り入れる隣駅の押上駅の地上にあの「東京スカイツリー」が出来たのです。
 この3〜4年、建設中のスカイツリーを見ようとする見物客が押し寄せるようになったのです。その結果、多くの観光客が利用していた東武鉄道業平橋は、それまでの「通過駅」から一気に重要駅に変わりました。小さな駅で改札口はひとつ、改札だってふたつもあれば充分だったのに、突然、混雑駅に変身。もちろん周辺には新しいお店も開店しました。
 何カ月かに一度程度訪れるこのがある僕は、近くを通るたびに「こんなに変わるんだ」とびっくりしていたのですが、ある日「駅名が変わりますという案内看板を見た時には「そこまでやるか」と呆れかえりました。新しい駅名は「東京スカイツリー駅」。東武鉄道単独の駅で東京スカイツリー見学に利用される駅ということで白羽の矢がたったのでしょう。
 そして今日、駅名が変わりました。しかも、日光行きの特急「スペーシア」まで停車することになったとのこと。地元を知っている人間なら誰もが驚くと思うような「英断?」です。誰が乗り降りするのか疑問は残りますが、これも「一気呵成」の延長なのでしょう。
 ちなみに臨時改札口が設けられ、駅のホームの延長は工事中です。なんとか5月の東京スカイツリー開業までには間に合うのでしょうが、それにしても……。


 在原業平さんも近頃の大騒動を天上から見下ろして呆れかえっていらっしゃるのでは……、なんて思っているのは僕だけでしょうか。つい数年前まで地域経済の地盤沈下で悩んでいたのに、今や、駅名は変わるは、特急は止まるは、新しいお店は開店するは、人は溢れかえっているは……。なんだかとてつもない観光地になってしまいました。
 と言いながら、実は僕も行こうと思っていたのです。結局、冷たい雨が降り続いていたので来週にでも行くことにします。もちろん、僕の場合、自転車で行きますが。行って、また呆気に取られてきます。


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