∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

とある写真展にて

【どうして黄色いの?】


 イギリス生まれの写真家が行っている新作展を銀座まで見に行きました。以前、雪の北海道を白と黒でまとめたランドスケープを発表した時から彼の写真にはいつも心惹かれていました。もちろん今回も。今回はフランスを舞台にしたとのこと。南フランス、モンサンミッシェル、パリ……。スローシャッターでブローニーフィルムに焼き付けられたそのランドスケープは高い期待を裏切らないものばかりでした。
 ところが、会場で今回の個展で展開された写真をまとめた写真集を売っていたのですが、こちらがどうしても納得いかないもの。どうしてこうなるの? と写真集をめくりながら考え込んでしまいました。


 これまでも彼の写真集は和綴のものあり、本物の木の薄板を表紙に使ったものありというコレクターズアイテムだったのですが、ある時期から印刷された写真の色調が大きく変わりました。僕の知っている限りではこれまでに5冊。どうしても、その色調に納得いかないものがあります。
 彼の写真はモノクロームばかり。オリジナル・プリントの白の“ヌケ”と黒の“シマリ”、グレーの“豊かな階調”が表現のキーポイントになっていると思っています。
 しかし、写真集、つまり印刷物になった途端、僕には“黄かぶり”としかいえないような黄味の強い写真になってしまうのです。
 印刷用のルーペで確認していないので想像でしかありませんが、オフセットではなくグラビア形式で印刷したため、キかアカをごく僅かのせたのではないか、そのために色のボリューム感は出たけれど、オリジナルとはまったく違う色調に仕上がってしまった。原因はこんなことではないかと想像してしまいました。


 この色調が好きな人もいるのだろうけれど、ここまでオリジナルと違う色調だと……。しかも数メートル離れた壁面にはオリジナル・プリントが展示されているのです。写真を観た感動を持ち帰るために買っていくファンだっているだろうに……。結局、僕も買いませんでした。


 実は、印刷物のカラーバランスには国民性が出ます。
 日本は軽いけれど階調が豊かになるような色調がカラーバランスの基本になりますが、アメリカではブルー系、ヨーロッパではイエロー系、韓国では黒っぽいものが主流になります。たとえオリジナルと違う色調になったとしても出版物ではこの傾向の色にまとめる場合が多いように思われます。
 その良しあしはともかくとして、色調も大切な表現のひとつと考えれば、オリジナル・プリント以外に出版物というもうひとつのオリジナルが作られているワケです。
 インターネットで世界中の写真が共有される時代だからこそ、出版物のオリジナリティに関しても著作権同様、もう一度考えてみたほうがいいようです。


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