【でも東京はのどかな秋の日】
小学校に行くか行かないかという年齢だった頃、この時期になると父が僕に向かって「お山は雪だんべ」と語りかけるのが恒例になっていました。
何度も聞いていた僕は「また出た」と聞き流していましたが、よほどこのフレーズがお気に入りだったのか、何度も何度も繰り返し、悦に入っていたのをおぼろげに覚えています。
ある時、語源はどこにあるのかと調べたことがありました。落語に出てくるとか、出雲地方の方言だとかという結果が出たのですが、どれもこれも腑に落ちるものはありません。
語源は特定できませんでしたが、墓の中で眠っている父が「お山は雪だんべ」と話し、それを聞いた母が「はあー」と応えるという図式だけは確実なはずです。
一気に積雪量が増えたとか、富士山がすっかり冠雪したというニュースが聞こえてくるなかで東京は、比較的暖かく、まさにのどかな秋の日そのもの。「秋を満喫」とばかり訪れた根津神社のイチョウも綺麗に色づいていました。
雪の便りが聞こえてくると「お山は雪だんべ」と言い続けていた父。祝日で混雑しているのを承知で「秋を満喫」とばかり根津神社に出かける僕。同じ季節だというのに、どうも感じ方が違うようです。
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