その決断に快哉を
僕は仕事で海外に出かけるたびに、会社には内緒で、無理矢理休日を作って美術館や博物館を巡ってきました。
そして、ヴィクトリア&アルバート・ミュージアムやボストン・ミュージアムのジャパン・コレクションを観ながら、素晴らしいという感想と同時に、どうしてここまで国宝や重文級の名品があるんだという疑問をいつも感じていました。こうやって大切にしてくれる場所と人がいてくれてよかったと自分を納得させることが常だったのです。
江戸後期に陶器や七宝などの外貨獲得のための工芸品輸出とは違い、日本画や浮世絵、仏像、金属工芸、伊勢型紙などの“流出”は、当時の人々が「当たり前のようにそこにあるもの」として、その価値を見極めなかったからではないかと、時代を超えて、抗議したくなったこともしばしばでした。
明治政府の廃仏毀釈政策、第二次世界大戦後の貧困と混乱がもたらした投げ売り。日本の文化財のうちどれくらいが海外、特にイギリスとアメリカ、オランダなどに流出してきたのでしょう。
今、その作品を観ようとすれば、お金を掛けて現地に行くか、時間を掛けて里帰りしてくるのを待つか。グローバルな鑑賞スタイルでいいじゃないかなんて「広い心」の持ち主にはなれそうにありません。
そんな不満を抱き続けてきた僕にひとつのニュースが飛び込んできました。
─出光美術館がジョー・プライス・コレクションのうち190点を購入─
その中には若冲の『鳥獣花木図屏風』もあるとか。つまり、あの巨大な白い象が描かれた屏風が日本に帰国し、いつでも出光美術館に行けば観られるようになるわけです。
これで、氏のお眼鏡にかなった江戸後期の作品を観るために、そのコレクションが集まっているロサンゼルスのいくつかの美術館を車でウロウロしなくてもよくなるかもしれません。
これまで一度も思ったことはありませんが、今回だけは言わせていただきます。
「ありがとう、出光美術館」と。
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