∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

≡≡ すべては記憶の中に ≡≡

ありがとう「クロくん」

 今日だけは、読みたくもないとお叱りを受けることを承知で書かせてください。


 2019年11月3日17時35分。我が家で生まれ育った居付き猫のクロくんは永眠しました。

 どこかで交通事故にあったらしく、治療が極めて困難な損傷を顔面に負ったクロくんが大声を上げながら我が家に戻ってきたのは昨日の午後半ばでした。すぐに近くの動物病院に連れていきましたが、医師からは将来を危ぶむ声しか聞こえてきませんでした。
 クロくんを預けて一旦帰宅して、友人に電話したところ、彼はその症状を聞いて、自分に厳しくなる時だとのアドバイスを授けてくれました。
 そして僕は、今の彼にとってもっとも適切な選択肢はなんだろうとひと晩悩み続けて、最終的に厳しい決断を下すことにしたのです。

 今朝、病院が開いたのを見計らって出向いたところ、クロくんは静かに寝ていました。

 入院中に応急処置と清拭をしてもらったのか、傷も身体の汚れもきれいになり、穏やかな寝息を立てて寝ている彼の寝姿は、弱いくせにやんちゃで、食いしん坊で、甘えん坊だった頃そのもの。顔面の大怪我さえなければそのまま連れて帰れそうなくらいだったのです。

 「先生、楽にしてやってください」。

 ケージの中で彼が寝ているのを見下ろしながら僕はその言葉を伝えました。苦しかったです。辛かったです。でも、彼が楽になるためにはこの決断しかなかったんです。そして今日の夕方、僕は彼を旅立たせたのです。

 ちっぽけなオンボロアパートで生まれ育ち、毎晩僕の腹の上で寝て大人になった彼。食べる時と寝る時、そして雨の時以外は外の世界で駆け回ることが大好きだった彼。喧嘩をして首根っこの毛をごっそり抜かれて白い肌を露わにしながら帰ってきて、泣きながらふてくされていた彼。帰ってきた時はいつも大声で「帰ってきたぞ」と大声を張り上げながら入ってきた彼。

 新しい毛が生えてきてようやく元の全身黒毛に戻ったと喜んでいたのに……。彼は大怪我をして帰ってきました。
 我が家こそ自分の居場所だと信じて、大怪我を負ってもここに帰ればなんとかなると思ってくれていたのだと信じています。僕なら治してくれるはずだと思っていたのかもしれません。

 でも僕は、彼が食べることも見ることもままならない不自由な生活で一生を終えるよりも安らかな旅立ちを選んでもらったのです。きっと彼もこの決断を理解し、納得してくれるはずです。そう思いたいんです。そう信じたいんです。

 今、永眠した彼は病院で安置されています。荼毘に付されるのは明後日です。今の僕には贅沢なことは出来ませんが、できるだけ丁寧に旅立てるように準備しました。あとは彼が安らかに旅立ってくれることを願うばかりです。

 数枚の写真と楽しかった思い出。彼は僕に大きな足跡を残してくれました。
 ありがとう、クロくん。キミと過ごした時間は忘れないからね。

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