∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

桜の花

◇桜の花が日本に春を連れてくる。菊と同様、日本の国花とされる桜の花。日本の美意識を体現する桜の花。日本人にとって桜の花ほど特別な花はほかにない。
 古来から(その花)「さくや」が語源ではないかと言われてきたほど、愛されてきた桜の花は、厳しい冬を耐えてきた人々に開放感や喜びを与えてきた。
 桜の花という淡いピンクの小さな花がいくつも集まり、その集まりがまた集まった独特の咲き方をする桜は、数百もの種類があると言われている。なかでも、一本の親木から接ぎ木を繰り返して増えていった「ソメイヨシノ」は花見の主人公と言っても過言ではないだろう。
 ちなみに僕は、しだれ桜や八重桜のようなボリュームのある種類のほうが好みである。
◇桜の花は、まず花が咲き、咲き終わってから若葉が出るという独特の咲き方をする。つまり、メインイベントが先に来て、その後で「樹の一年」が始まるわけだ。
 まず咲く。そして、散った後はひそやかに生きる。日本人に愛され続ける理由がここにある。信条。美意識。精神性。なにもかも日本人のDNAに訴えかけるものばかりだ。
◇桜というと春をイメージするが、実は桜は一年中人々を楽しませてくれる樹木なのだ。
 花が咲き終わった5月頃には青葉の爽やかな緑色が見る人の目を楽しませる。夏になれば、濃いグリーンの葉が涼しい木陰を作り出す。そして秋。朱色に色づく紅葉が秋の終わりを告げながら歩道に朱色のじゅうたんを広げる。そして、冬の終わりが近づく頃、小さな蕾が春の到来を予告する。
◇そんな、日本人にとって特別な存在の桜の花が、特別な年になってしまった今年も咲いた。
 今年、桜の花を愛でる時、どんなことを思い浮かべるだろう。
 数年前、僕は「桜の花を見るのは今年で最後になるだろう」と暗い気持ちで見上げていたことがある。あの時から何年か経ち、今年も観ることができた。今、僕にとって桜の花は「一年の歩み」を実感させてくれる大切な花になっている。
◇ただ、特別な年になってしまった今年はそれだけでは済みそうにない。
 桜吹雪を観て、見知らぬ人のことを想いながら涙することもあるかもしれない。
 散りかけた花と芽吹き始めた青葉を観ながら、誰かとともに誰かのために確実な歩みを刻んでいく決意をすることもあるかもしれない。
 しかし、どんな心情で桜の花を愛でることになっても、その一瞬だけは美しさのトリコになろう。自然は厳しくもあり、優しくもある。今は優しさに甘えよう。
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