∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

裏路地の繁盛店

【日暮里の立ち食いソバ屋】


 第二次世界大戦後、東京の駄菓子問屋の中心地だった日暮里駅。東京方面から山手線で向かうと右側には谷中墓地、左側には駄菓子の卸売商店や貴金属加工用機器や歯科用機器の卸業者、ハギレやコットン製品を商う問屋など多方面の卸売業者が肩を寄せ合いながら並んでいました。
 そんな街が数年前大きく変わりました。駅も京成とJRが共用する便利な駅に様変わり。駅前には高層ビルが建ち、卸問屋はそのビルの中に入ることになりました。その結果、高層ビルの中には駄菓子問屋と貴金属加工用や医療用のドリルなどを扱う問屋、ミニチュアカー問屋などが並ぶようになりました。
 
 
 そんな日暮里駅の近く、ビルの陰に隠れた、まさしく「裏の路地」にいつ行ってもパワー全開の立ち食いそば屋さんがあります。名前は『一由そば(ひとよしそば)』。朝4時から夜10時までささっとそばを食べて仕事に向かう人々で賑わっています。
 特に早朝は工事関係者、タクシーやトラックの運転手など、いわゆるガテン系の人たちが多いのですが、なかにはホテル帰りかな、なんて想像してしまう二人連れや犬をお店の外に繋いだ散歩中の人なども。
 数ヶ月前に見つけた時には、どうしてこんな裏路地に? と思いました。しかし、僕自身が大ファンになってしまった今では、人気の秘密のようなものが分かるようになってきました。
 もちろん、食べるところがないからというのが一番の理由ですが、それだけではないのです。人を惹きつけるメニューと、「そばひとすじ」という印象のオヤジさんの独特の語り口。このふたつが魅力的なんです。揚げ物は20種類以上。定番の「かきあげ」だって数種類。季節メニューとして「わかさぎ」や「牡蠣」なんていうほかの立ち食いそば屋さんでは絶対にお目にかかれないものまで。しかも「ちくわ半分」という「半分」メニューまであるのです。おかげでいろいろな揚げ物を少しずつ、たくさんの種類を食べたいという食いしん坊が集まってくるのだと思います。10種類くらい揃っているおにぎりとそばで小腹を満たせるわけです。
 実は今日も行ってきました。5時くらいだったでしょうか。無性に食べたくなって自転車をかっ飛ばしました。大通りにはタクシーやトラックが並んで駐車しています。「混んでいるんだろうな」と思いながら入ると、予想通り。僕の前に4人のガテン系の皆さんが注文を待っていました。
 眼鏡を曇らせながらの注文です。ちくわとべにしょうが天の半分を載せてもらい、テーブル席へ。ささっと食べて帰宅。暗くて寒くて眠いのに心の中は満足感でいっぱいです。


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