∞∞この続きはコーヒーと一緒に∞∞

その日その時、感じたことを感じたままに。まるで誰かと語り合うコーヒーブレイクのように。

谷中のアンテナショップ

【谷中にて】


 都議会議員選挙の投票の帰り、谷中の三崎坂(近頃はさんさき坂とひらがな表記することが多くなりましたが、いかがなものでしょう)で一軒、新しくオープンしたお店を見つけました。谷中銀座や蛇道(へびみち)にも数軒、新しいお店が開店したり、準備していたり、店舗賃貸を始めていたりと、谷中界隈はこれまで以上に賑やかになりそうです。今日見つけた一軒もそんな「谷中指向」のひとつと言ってもでしょう。ただ、売っているものが従来なら卸売りや注文生産専門だったものという異色の存在でした。
 商品は「桐箱」。桐箱といえば伝統工芸品用の箱としては欠かせないものですが、近頃では中国製の安い桐箱に圧倒されて、上質素材と高品質の日本製はそれなりに高い意識をもった製造業者や小売店でないと手を出さなくなったと言われています。
 そんな箱屋さんが出した小売店です。どんなものがあるのかと興味津々で入ったのですが、棚に見えるのは陶器、銀器、水引もの、貴金属製品などばかり。アレッ、箱は? と探したところ、それぞれの商品がディスプレーされた棚の下の棚にさりげなく置かれていました。いわゆる入口商品として桐の薄板を使ったハガキやシオリというお土産系があるものの、それ以外はすべて商品別に作られたものばかりです。
 さすが老舗。モダンな店舗インテリアの中に置かれてはいても「箱は裏方」という精神が見え隠れしているように感じました。


 が、しかし。桐箱をベースにして桐素材の可能性や、日本的な箱の概念を一新しようというような気概が感じられません。シンプルに桐箱を知ってもらうという趣旨ならそれで結構ですが、出来れば「ドレドレ」とワクワクしながら入ってきた通りすがりの客でも「ホホッー」となるような商品が一点でもあればよかったのに。そんな「気持ちという風船に穴が開いた」ような印象でお店を後にしました。中国製の「使い捨てに近い桐箱」とは一線を画すものだけに、手ワザの冴えを見せる演出だけでも結構、できれば磨き上げられたワザを活用した新機軸が出てくることを、切に望みながら。


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